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これはSF映画、カンフー映画、同時にコメディ映画であり、家族の絆を描いた映画。監督のダニエル・クワンとダニエル・シャイナート(あわせて「ダニエルズ」)にとって、この作品は2本目の長編映画だけれども、アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞(ミシェル・ヨー)、主演男優賞(キー・ホイ・クァン)をはじめ、各映画祭で実に多くの賞を受賞している。
物語は「マルチバース(多元宇宙)」の世界を描いていて、登場人物らは皆、別のマルチバースで同じ容姿(同じ存在)だが別のバースにいる別のキャラクターを持っていて、そのマルチバースを行き来してしまうのだ。
いちおう「この世界」で主人公のエヴリン(ミシェル・ヨー)は中国系の移民で、夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)と共にコインランドリーを経営している。年頃の娘のジョイ(ステファニー・スー)とエヴリンとの関係はうまくいっていないし、実はウェイモンドはエヴリンと離婚しようとしている。さらに、コインランドリーは国税局の監査対象になっていて、エヴリンとウェイモンドは局の監察官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)の審査を受けなくってはならない。
その国税局のエレヴェーター内で、ウェイモンドはとつぜん別のマルチバースの「アルファバース」から来た別のアルファ・ウェイモンドと入れ替わってしまう。アルファ・ウェイモンドの世界では人々は「マルチバース」をけっこう自由に行き来しているのだが、今「マルチバース」全体はジョブ・トゥパキなる存在のため危機に瀕しているという。そんな状況から「マルチバース」を救えるのが、エヴリンなのだと。なぜなら、「マルチバース」全体には無数のエヴリンが並行して存在しているが、そんな中でこの地球のエヴリンこそ、失敗ばかりのどうしようもない生き方をしているから選ばれたのだという。
まずは監察官のディアドラ、そして国税局の警備員らが「アルファバース」に敵対するジョブ・トゥパキの手下に入れ替わってしまい、エヴリンはひとりでそいつらと戦うのだ。エヴリンが戦うときはどこかのマルチバースで「カンフーの達人」というエヴリンと入れ替わるようで、カンフーの妙技を披露するのである。映画はまだ始まったばかり。
‥‥と、こんな風にストーリーはまさに「目まぐるしく」展開して行くわけで、書いているとすぐ5000文字ぐらい超えてしまいそうだ。画面もまた「コマ落とし」的に高速で「マルチバース」を行き来して、息つくヒマもない。
大幅に省略して書くと、実は「ラスボス」のジョブ・トゥパキとは娘のジョイなのであって、彼女は宙に浮かぶ巨大な「ベーグル」をつくり出し、そのベーグルの真ん中の穴こそが、「ブラックホール」的にすべての「マルチバース」を破壊する可能性があるのだ。まあ「ドーナツの穴」が「ブラックホール」、みたいなもので、これは「哲学的命題」だ。
エヴリンは「マルチバース」におけるさまざまな「自分自身」を体験しながらさまざまな敵と戦いつつジョイを追い、母娘の関係を修復してすべての問題を解決しようとするのであった。
コメディー要素も強いし、カンフーの武闘シーンは迫力ある。と思っているととつぜんにシリアスに家族問題になったりする。
さいしょに観たときにはちょっとついて行けず、半分ぐらいで脱落したわけだったけれども、とにかく「この映画のテイストはそういうものだ」と割り切って観つづけると、いやはやこの映画、とっても面白い。
ある意味でここまでハチャメチャにとっ散らかった映画というのもスゴいよね、とは思う。それは「新しいSFを産み出した」みたいな脚本の手腕だろうし、目まぐるしく移動する「マルチバース」を一篇の作品にまとめあげた編集のおかげでもあろう(「編集」も、アカデミー賞を受賞している)。
「生物が進化することのなかった世界」で、二つの岩になってしまったエヴリンとジョイとの対話、さいしょは笑って観ていたが、そのうちに対話が胸にグッときてしまい、しまいに二つの岩が谷間をいっしょに転げ落ちるシーンでは、見てるのはただの「岩」だというのに、不覚にもウルッとなってしまった。
一方、エヴリンとジョブの手下との戦いで、リードにつながれたワンコをブンブン振り回して武器にするのは「堪忍してください」と思ってしまった(大笑いしたけれども)。
‥‥観終わったあとの感想としては「とっても面白かった」わけだし、あまりに高速展開するストーリーを「ちゃんと捉えたい」ということでも、もういちど観てもいいな、とは思ったのだった。
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