この日は映画を観に行くことにした。観る映画は、片山慎三という監督さんがつげ義春の作品にインスパイアされて撮ったという『雨の中の慾情』という作品。
今は経済的にあまり余裕ないし、観に行こうかどうしようかと迷っていたけれども、多少「ま、いいか」ということもあったので、観に行くことにした。
その作品を上映しているのは、となり駅から乗り換えてちょっと行った駅前にあるショッピングモールの中のシネコン。けっこうたいていの映画はこのシネコンで上映してくれるし、そうじゃないマイナーな映画はとなり駅のそばの映画館で上映されるので、よほどマイナーな映画でもなければ、この2館だけで観ることができる。ネットでも「ウチのあたりは映画を観るのに恵まれた地域」と書かれていたけれども、わたしもそのことは実感している。おかげでずっと、毎月のように映画を観に出かけているけれども、この2年半ほどは東京とかの映画館へ出かけたことはないのだ。
この日観る予定の『雨の中の慾情』、知らない監督さんの映画だけれども、やはり「つげ義春」の作品からの映画だというと、観たくはなってしまうわけだし、調べるとけっこう注目すべき監督さんだと思ったわけだ。
映画の上映が始まるのは朝の8時20分からと、めっちゃ早い時間だ。「それは早くにウチを出なければ」と、7時半よりも前に家を出た。今日は土曜日だからそれほどに電車は混んでいなかった。
電車に乗って、乗り換えを含めて20分ぐらいで目的駅に到着。シネコンのあるショッピングモールへ行くが、まだ朝早いのでシネコン以外の店舗はまだまだ開店していないが、シネコンへの通路は開けられている。その通路のそばに、クリスマスツリーが飾られていた。もう2週間ちょっとでクリスマスだものね。商業施設としては、今クリスマスツリーを飾らなくってどうするんだ、というところだろう。わたしは今はクリスマスの時期に盛り場に出向くことも絶えてないので、こ~んなりっぱなクリスマスツリーを見るなんてずいぶん久しぶりのことに思える。
時間はもう8時を過ぎていたので、チケットを買って上映スクリーンへ入る。観客は開映時でわたしを入れても6~7人だっただろうか。ま、土曜日の午前中から「欲情」なんたらという映画を観る人も、そりゃあ少ないだろう(これでも昨日までは1日に4回上映されるというヘビーローテーションだったのだけれども、今日からはこの、朝いちばんの回の1回だけになってしまったのだ)。
映画はまさに「夢」の世界。そんな世界を、どこからが「夢」でどこまでが「現(うつつ)」かもわからぬまま突っ走る。突っ走る原理は「欲望」と「恐怖」なのだろうか。ラストが、そんな「悪夢」のなかに置きっぱなしにされるのなら、わたしもうなされていたことだろうが、ラストは「そんな世界からの脱出」を暗示しているようで、わたしも救われた。
映画館を出て、下の階の「紀伊国屋書店」に立ち寄ってみた。そろそろ、買うつもりの『国家はなぜ衰退するのか』が重版されて置かれている時期かと思ったのだったが、まだ店頭には見当たらなかった。
それで「何か新刊があるだろうか?」と「海外文学」のコーナーをみてみると、なんと、ヘルマン・ブロッホの『誘惑者』が出ていておどろいた。「新訳」かと思ったら、古井由吉の古い翻訳だった(これは定評あるヤツだからしょ~がないだろう)。わたしゃ昔、これは読んだよ。もうすっかり記憶に残っていないけれども、一部分だけ憶えている気がする。今でもブロッホの『夢遊の人々』はウチの本棚に並んでるよ。
あと、棚にはホフマンの『牡猫ムルの人生観』の新訳も並んでいた。これも昔読んだけれども、とちゅうで挫折したのだったなあ。読んでみたい本だが。
文庫本コーナーをみていると、ラブクラフトの「クトゥルー神話傑作選」というのもあって、刊行されたのは5年ぐらい前のようだけれども、わたしはぜんぜん知らなかった本だ。「読みたいな、買おうかな、どうしようか」と迷ったけれども、買わないで店を出たのだった。
あとは1階のスーパーマーケットに立ち寄り、「今日のお昼はお弁当ね」と、美味しそうな弁当を買い、さっさと電車に乗って帰路に着いたのだった。
自宅駅に着いて駅前の小さなスーパーに寄ってみたのだけれども、なんと、外側がボロボロになっていてみすぼらしいのだけれども、内側はぜんぜんOKよ、というキャベツがひと玉100円で売られていたのだった。このスーパーは農家からダイレクトに仕入れているから、他のスーパーでは店頭に並べないような「傷もの」とかでも激安で売られているのがうれしい。今はキャベツは「貴重品」。喜んで買って帰りましたよ。
帰宅してニェネントくんに「ただいま~」とあいさつをして、買ったお弁当で昼食。いつもとちがう匂いに、ニェネントくんが「なに食べてるのよお~」と寄ってくる。おかずの「唐揚げ」を、ちょびっとだけ分けてあげるのだった。
そのあとはこの日出かけて聴けなかった『ウィークエンドサンシャイン』と『世界の快適音楽セレクション』を、エアチェックしておいたUSBで聴くのだった。『世界の快適音楽セレクション』でかかる、わたしが生まれる前の古い音楽を聴いていると、この日観た『雨の中の慾情』のことがしっかりと思い出され、「思った以上にあの映画にインスパイアされていたんだなあ」と、あらためて思うのだった。あとから重たくのしかかってくる映画だったか。