オードリー・タンによる著作ではなく、日本のオンライン雑誌社のオンライン・インタビューに答えたものを文字起こししたもの。
このインタビュー時(2020年)、オードリー・タンは台湾のデジタル担当政務委員(大臣)だったわけで、どうもこのインタビューの内容はオードリー・タンの立場を前面に打ち出した、台湾政府の政策のコマーシャル的な部分が多い。そういう意味でもっとオードリー・タン個人の立場からの、「個人の可能性」を読みたいと思っていたわたしは、ちょっとはぐらかされた思いだった。
このインタビューの中でオードリー・タンは「ハッシュタグ」の可能性を語っているが、当時はSNS上での「#MeToo」とかのリベラルな運動が社会に影響力を持ち得ていた時代だった。まあ今だってちょっとした契機があれば「ハッシュタグ」が力を持ち得ることもあるかも、とは思うけれども、今は「Twitter」もイーオン・マスクが買収して「X」になってしまっていて、その4年前のパワーは望めない気もする。
また、オードリー・タンはこのインタビューの中では「AI」の未来にもポジティヴな考えを示している。果たして現在のオードリー・タンならどのように答えるのだろうか。
あと、オードリー・タンは自らのことを「保守的アナーキスト」だと語った上で自分の「世界」への向き合い方を語るのだけれども、実はわたし自身が過去にいろいろとアナーキズム文献を読んでいて、知らずに自分自身の「生き方」「ものの考え方」でアナーキズムの影響を受けていることを、この本を読んであらためて自覚した。
そのような意識からすると、(ちょっと生意気だが)この本で語られていることは特に目新しい認識でもなく、(自分がそんな生き方ができているかは保留して)聞きなれた意識だとは感じられた。
そういうところで、わたしはもっともっと踏み込んだことを語ってくれることを期待していたのだが、この本は少々「入門書」的な位置づけに収まるのだった。
ただ、オードリー・タン自身が「保守的」と語るように、そのアナーキズムが「左翼的で過激な運動」からは距離があることが、現在のわたしの考えとも合致するところもあり、「これからのアナーキズム」の入門書として読まれてもいいのではないか、とは思うのだった。