
さて、6月14日に柴咲コウ主演で公開される黒沢清監督のセルフ・リメイク『蛇の道』の、1998年版オリジナルがYouTubeで期間限定無料公開されているもので、またまた観返してみた。オリジナル版で哀川翔の演じていた役がリメイク版では柴咲コウで、香川照之の役はダミアン・ボナールが演じている。わたしはこの俳優さんは先日ドミニク・モル監督の『悪なき殺人』で観ている。あと、下元史郎が演じていた「拉致される男・大槻」は、どうやらマチュー・アマルリックが演っているみたいだが。
改めてこのオリジナルを観て、「実はけっこう早い段階で、宮下(香川照之)は自分の娘を殺したらしい犯人らの仲間だったのだな」とわかる展開なのだと了解した。これは、新島(哀川翔)がいないときに、宮下が拉致している大槻(下元史郎)と檜山(柳ユーレイ)との会話でわかるのだが、これとは別に新島も、宮下がいないときに拉致した二人に、「宮下はヤバいから誰か適当に別のヤツをでっちあげるように。そうしたら逃がしてやる」と話をするのだ。それで「有賀」というヤツを拉致することになるのだが、けっきょく「適当にでっち上げられたはず」の有賀だって、宮下の娘殺害に深く関わっている存在なのだった。
そもそも、さいしょに「コイツが犯人だ」と拉致された大槻にしても、なぜ新島は「大槻が関係者だ」としたのか。ここで、さいしょっからこの拉致計画は新島がすべて承知していてやっていたことだろうということになる。では新島は「なぜ宮下の復讐計画を手伝おうとしたのか」。それは宮下自身がこの事件に深く関わっていたからであり、さいしょっから新島のターゲットは宮下だったのだ。
この「オリジナル版」でめっちゃ興味深いのは、そうやって「外道」な復讐劇に手を染める新島という男が、普段は私設塾で年齢層もさまざまな人たちに「物理数学」を教えていることで、しかもその教室には天才的な理解力を示す8歳(殺された宮下の娘と同年齢)の少女がいるのだ。別の場面ではその娘と新島とが公園の敷石に物理数学の計算式をチョークで書きつづけている場面があり、そこに通りかかった宮下が式を覗き込んでいて、新島がそんな宮下に「あんた、興味あるの?」と声をかけることから二人の関係が始まったようでもあるのだ(このシーンは演出を変えてラストに繰り返される)。
果たして、その「少女」は何者なのか?ということがめっちゃ気になるのだけれども、あるとき新島の教室を訪れた宮下が教室を出て歩いて行くと、電車の通る線路際の駐輪場にその少女が直立して宮下を見つめているという、そのシーンだけ無音の、黒沢清監督らしい、ほとんど「ホラーの一場面」という、恐ろしい場面があったのだった。
また、(これはその少女との話ではないが)教室で新島が別の生徒に問題を解かせたとき、黒板に書かれたその答えをみた新島が、「そうじゃない、それじゃあ空間が裏返って、時間が逆に流れることになる」と諭すシーンもあったのだが、どうもこの作品を観終わってみると、そのセリフが妙に心に残ってしまうことになる。この作品のどこかで、「空間が裏返って、時間が逆に流れる」ことになっているのではないのか。そう思わずにはいられなくなる。
そもそも「合理的な答え」のない作品で、「謎」が「謎」として観終わったあとも脳裏にこびりつてしまうのだったが、さて、来月公開のリメイク作品では、哀川翔の役を演じた柴咲コウは「精神科医」という設定なのだという。
そうすると、あの「空間が裏返って、時間が逆に流れることになる」という言葉はどう生かされるのか(それともカットされたままになるのか)、そしてあのミステリアスな少女はどうなるのだろうか? 今日改めて旧『蛇の道』を観て、そのリメイク版ではそのあたりがどのようになっているのだろうか、ということに、今は「いちばん」興味が湧いたのではあった。