ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『地下室のメロディー』(1963) アンリ・ヴェルヌイユ:監督

 昨日観たメルヴィル監督の『いぬ』と同じ1963年の作品で、ジャン・ギャバン、そしてアラン・ドロンという2大スターの共演作ということ。ま、「共演」とはいっても、基本的に動き回るのは若いアラン・ドロンの方で、ジャン・ギャバンは基本は作戦をたてる人間で、演技の上でこの二人がからむシーンは、そんなにあるわけではない。

 ストーリーの組み立てで、先日観た『仁義』に少しだけ似ているところがある。それは刑務所から出所したジャン・ギャバンが「さらに大きな強奪事件」を目論むところとか、その相棒を選ぶのに刑務所で知り合った男を使うところなど。『仁義』では、刑務所で知り合う男といっしょにやるわけではないが、刑務所から脱獄して来た男と組む。また、「三人」で組んでやる仕事だが、さいごに一人が「報酬はいらない」と仲間を抜けるというのも、『仁義』と同じだ。

 この作品では三人はカンヌのカジノの売上金を狙い、まずはドロンがギャバンの指示で「富豪のプレイボーイ」に扮して、カジノのあるホテルに先に行ってしばらく滞在し、ホテルのスタッフ(この場合は踊り子の女性)と親しくなり、カジノの裏側を探れるようになっておくわけだ。
 このあたり、映画で観ればアラン・ドロンの「化けっぷり」は大したモノなのだけれども、現実的に考えれば「しがない街のチンピラ」に過ぎなかったドロンが、高級ホテルに宿泊する富豪を演じ、プレイボーイとして「そのあたり手練手管であろう」カジノのダンサーを篭絡するというのはさすがに「非現実的」だろう。もしもドロンがそのような役割を問題なくこなせるような男であれば、もう彼はこんな「現金強奪」などという危ない橋は渡らずに、「立派な詐欺師」として悠々自適の生活が出来るだろう。

 映画として、そりゃあ「現金強奪」への手順など興味深くもあるし、特にこの映画でアラン・ドロンがカジノの建物の屋上へ向かうあたりからの展開は、(人を傷つけないという意味でも)ほとんど「ルパン三世」的なノリではあった。「ルパン三世」のように、まずはその「強奪」にしっかり成功することだろうし、でもそのあとに何らかの「不具合」が起きて彼らは「現金」を得ることは出来ないだろうと予測できる(峰不二子が登場するのだろうか?)。これは『仁義』もまた、「宝石奪取」には成功しても「換金」で致命的な失敗をするわけだ。まあ、何もかも『仁義』と比較しても仕方がないのだけれども。

 そのあたりの、映画としての「娯楽性」は楽しいのだけれども、これをフィルム・ノワールとみても、先に書いたように同じ年にメルヴィルの『いぬ』も発表され、それこそもっとシブい「新しいフィルム・ノワール」の時代になるわけだし、映画界全体をみても、このフランスではまさにゴダールトリュフォーらの「ヌーヴェルヴァーグ」真っ盛りなわけで、このアンリ・ヴェルヌイユ監督などは「古い世代」とされてしまったことだろう。それでもこの方、ジャン=ピエール・メルヴィルよりも若くって、1990年代まで作品をつくり続けられたようだ。