ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』(1970) サム・ペキンパー:監督

 サム・ペキンパーといえば、やはり『ワイルドバンチ』や『ガルシアの首』の血まみれ暴力描写であり、アクションシーンのスローモーションなのだけれども、この『砂漠の流れ者』にはそのような暴力描写もなく、「スローモーション」の代わりに「コマ落とし」のコミカルな映像。
 ペキンパー監督はこの作品を「自分のベスト・フィルムだ」と語ったらしいけれども、どうも、一般に流通していた自作映画のイメージを自ら裏切ることに楽しさを感じていたように思う。

 いちおう「西部劇」というジャンルに入れられる作品だろうけれども、ここには派手な撃ち合いやアクションシーンもない。終盤には砂漠を走って来る「自動車」も登場し、一面で「これはもう<西部劇>の終わりを描いた映画なのだ」という側面も持っているだろう。

 主人公のケーブル・ホーグ(ジェイソン・ロバーズ)は砂漠を旅するときに同行していた仲間2人に裏切られ、砂漠に置き去りにされるのだが、彼はその砂漠で「水源」を発見し、その場所で駅馬車の中継地点を開設して自立する。町で知り合った娼婦のヒルディ(ステラ・スティーヴンス)といい仲になり、砂漠の水源にさいしょに訪れたインチキっぽい牧師のジョシュア(デヴィッド・ワーナー)も仲間になる。何年もの月日が流れ、ついに自分を裏切った2人とめぐり合うのだ。

 この映画のポイントには、それまでの西部劇にはない「親密な男女の愛」が描かれていることがあり、いくらコメディ仕立てだとはいえ、ケーブル・ホーグとヒルディとの関係性は特筆に値するものはある。それは「お互いを拘束しない愛のかたち」であり、ケーブル・ホーグのもとから出て行くというヒルディのことをケーブル・ホーグは止めないし、何年ぶりかに戻って来たヒルディもケーブルは普通に迎え入れる(そのあいだにヒルディはサンフランシスコで金持ちと結婚していたのだが)。
 もちろん、ケーブル・ホークは自分のことを「ヴァガボンド」だと知っているわけだろうし、ヒルディを愛していても自分が彼女を引きとめることは出来ないと思っていたのだろうか。
 そ~んなケーブル・ホークの心情を実は深く理解していたのではないかというのが、神父のジョシュアで、彼の存在がなければこの映画は成り立たない。

 ジョシュアを演じるのはデヴィッド・ワーナーで、以降いろんな映画でその姿を見ることになるけれども、まだ若い彼にのちの面影を見つけるのはむずかしかった。そんなデヴィッド・ワーナーも、去年に亡くなられてしまった。
 そしてもちろん、ヒルディを演じられたステラ・スティーヴンスは、どこまでも魅力的で可愛らしい。今となってはこの『砂漠の流れ者』は彼女の「代表作」と言っていいのだと思う。