ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『MEMORIA メモリア』(2021) アピチャッポン・ウィーラセタクン:脚本・監督

     

 映画というものが映画監督の「夢」の具現化だとしたら、これほど見事な映画作品もないと思った。「映画を観た」というより、まさに「映画を体験した」という感じではあり、これはわたし自身のみた夢なのではなかったか、という感覚も生まれた。

 ヒロインはある朝に頭の中に「爆発音」のような音が響くのを聴き、それから不眠症になる(これは監督のアピチャッポン・ウィーラセタクンの「実体験」がもとになっていたという)。その原因を探りさまざまな彷徨から、コロンビアの首都ボゴタ、郊外の川沿いの村へと道をすすめてさまざまな人に出会う(ちなみに、この作品はコロンビア、タイ、イギリス、メキシコ、フランス、ドイツ、カタールの国々による合作である)。ついに、6千年の過去にもさかのぼる記憶、植物の細胞の記憶まで統合される(のだろうか)。

 映画はゆっくりとしたテンポで進行し、しかも多くのショットは固定カメラからのロングショットの長回しで、主演のティルダ・スウィントンの表情がしかと見てとれるのはもう映画も終わりにちかいところになってからだったりする。映画の中での実演奏以外、サウンドトラックとしての「音楽」は使用されていないのだが、この映画では「音」というものが持つ意味合いは大きいと思った。
 まあわたしは何とか睡魔に襲われることなく観たが、ちょっと寝不足だったり疲れていたりしたら、ぜったいに上下のまぶたがくっついてしまっていたことだろうと思う。

 ラスト近くに「とんでもない」展開があり、それまでおとなしく観ていたわたしも「えええええ~!」と声を上げそうになった(ここで眠っていた人は残念過ぎる)。
 この、何が「とんでもない」なのかということは、そらくこの映画を語るときに決して「ネタバレ」してはいけない、「トップ・シークレット」ではないかと思うのだが。

 そのことからも、この映画は「SF」だという見方も可能で、そのように観れば『2001年宇宙の旅』とか『ストーカー』に連なる作品とも言えると思う。そしてそのことは、今のハリウッド製SF映画がいかに「お粗末」なものであるか、ということにも通じると思った。それはもちろん「映画的語法」の違いではあるけれども、今ついつい、その「お粗末」だと感じたハリウッド製SF映画のタイトルを、ここに書きたくなってしまった。

 またこの作品は、ウィーラセタクン監督らしくも、美しい「映像インスタレーション」とも受け留められるだろう。
 いろいろ書きたいことはあるが、自分の頭の中にあることを言語化するのが難しいし、その、今自分の頭の中にあることをこそを大事にしたいと思う。

 またいずれリリースされれば家でも観たいが、観るならば音量をできるだけ上げて観たい。生音では住環境的に許されないので、いい性能のヘッドフォンとかを購入してから観たい。