ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ZAPPA』(2020) アレックス・ウィンター:監督

   

 ついに日本でも、あのフランク・ザッパの伝記ドキュメンタリー映画が公開された。観に行かないわけにはいかない!

 実はわたしはちょっとばかり年季の入った「ザッパ・フリーク」で、わたしが高校生のときにリリースされたフランク・ザッパマザーズ・オブ・インベンションのデビューアルバム「フリークアウト!」を、2枚組高価なアルバムだというのにすぐに買ってしまっているし、それから以降、リリースされたほぼすべてのアルバムを購入しているし、すっかりザッパの音楽に夢中になっていたのだった。いったいなぜわたしがフランク・ザッパのことを知るようになって、いきなりアルバムを買うことにしたのか、今ではもう思い出せないのだけれども、その後植草甚一氏などが「美術手帖」とかにマザーズ・オブ・インベンションについてのコラムを書くようになる前から聴いていたわけで、ちょっとばかり「先駆者」と自慢したい気分はある。
 当時わたしはサブカルチャー的なアートにも興味を持っていたし、ゴダールの映画にも夢中になっていたし、もちろんその時代のほかのロック音楽も大好きだった。それでわたしの中では、そんな「アート」「映画」「ロック音楽」をリンクさせることになるのが、フランク・ザッパの音楽だった。そして、ザッパの音楽を聴くおかげで、わたしには「現代音楽」などを聴く敷居は限りなく低くなっていたとも言え、今でもこの「わたし」という人間の成長・形成に「ザッパ」はなくてはならない存在だったと思っている。
 しかしわたしが本当に熱心にザッパの音楽を聴いたのは、映画『200モーテルズ』のサウンドトラック盤ぐらいまでのことで、それ以降はどちらかというと、ザッパの音楽は彼のギターを中心に聴かれるようになったと思うし、わたしはそういう時代の彼は、彼の作曲能力、思想性、そして「ユーモア」があまり感じられないように思っていたのだと思う(ここには短絡的誤解もあるだろうが)。

 さてさて、前置きが長くなってしまった! 今日観たこの映画のことを書こう。
 映画はごく、真っ当にフランク・ザッパという人の生涯をたどる「伝記ドキュメンタリー」ではあった。

 まずのオープニングは1991年、チェコでの「ヴェルヴェット革命(日本では「ビロード革命」と言われる)」でチェコが当時のソヴィエト・ロシアから離反して民主化革命を達成したとき、ザッパが招待されてチェコを訪れ、すでに病におかされていたザッパが、その生涯最後だったというギター・パフォーマンスをプラハの舞台で披露する場面から始まり、どうしても今の「ウクライナ情勢」とリンクして見てしまう(ウクライナも一日も早く平和になり、キーウででも大きなロック・コンサートとかが行われるといいのに、とは思う)。

 そのあとは少年期のザッパから、編年的に映画は進行して行く。少年時代にザッパが家庭内でつくったゾンビ映画みたいなのの断片を見れたのが貴重だったが、先に書くと、この映画の監督は、おそらくは膨大な量の記録映像を時間の限られた1本の映画の中に収めるのに困難を感じたのだろう、ちょっとばかりこま切れの情報量が多すぎるというか、もうちょっと大胆な編集をやってもよかったのではないかと思う。それは例えばしばらく前に観たエドガー・ライト監督による『スパークス・ブラザース』の演出とかと比べてしまって思うわけだけれども、かんたんに言えば、この映画でフランク・ザッパ初体験の人には、あまりに目まぐるしくって「あらあらあら」という感じだったのではないかと思う。
 実は先に書いたように、わたしはザッパの「大ファン」だったわけだから、どんな短かい当時のライヴ映像でも、そこに登場して来た「マザーズ・オブ・インベンション」などザッパのバンドのメンバーの名前はすべて記憶していたので、かなり感慨深いものがあった。特に、いちばん最初のマザーズのメンバーのバンク・ガードナー、そしてもう少しあとにメンバーになるルース・アンダーウッドへの、けっこう長いインタビューはうれしかった。ルース・アンダーウッドはザッパの曲をピアノ演奏もしてくれるし(ほんとうはそういうのでは、そのルース・アンダーウッドの元夫、イアン・アンダーウッドの言葉をもっと聞きたかったが)。映像としては、元タートルズのヴォーカル、ハワード・カイランとマーク・ヴォルマンが参加していたときの映像が流れたのがうれしかった。

 ただそんな中でも、ザッパの音楽に対する姿勢、社会に対する姿勢などはしっかりと描いていて、その点は「ザッパ初体験」の人にもしっかり伝わったのではないかと思う。
 まずはザッパは「作曲家」(まったくの「独学」というのがすごいが)であり、彼がロックやクラシックの分野のミュージシャンといっしょに演るのは、「自分の作曲した曲を自分で聴くためだ」というのが「なるほどな」と納得した。彼の中では、クラシックだとかロックだとかジャズだとかのジャンル分けは意味がなかったのだろう。

 映画のラストは、ザッパが生前最後に舞台に(指揮者として)立ったときの映像だったが、そのとき、思いがけずにわたしの大好きなダンス・カンパニー「ラララ・ヒューマン・ステップス」のエドゥアール・ロックとルイーズ・ルカヴァリエが登場し、短い時間だったけれども狭い舞台でデュオで舞った姿が写され、このふたりが舞台に登場したときには、思わず「あ!」と声を出してしまったのだった。

 とにかくは情報の満載された作品だったので、ソフト化されたらやっぱり買ってしまうだろうと思うのだった。