ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』アミール・“クエストラブ”・トンプソン:監督

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 これは、「ウッドストック」の行われた同じ1969年の夏に、ニューヨークの公園で開催された「Harlem Cultural Festival」というイヴェントの記録映像。一夜のイヴェントではなく、6月29日から8月24日までの日曜日の午後3時にハーレムのマウント・モリス・パークで6回にわたって開催されたといい、この無料コンサートには合わせて30万人の観客があったという。
 このイヴェントのプロデューサーはコンサート全体を撮影していたが、なぜだか今まで52年間、公に上映されなかったのだ。
 今回、この膨大な量の残された映像を編集して監督したのはアミール・“クエストラブ”・トンプソンという人物で、彼自身ヒップホップ系The Rootsというユニットのフロントマンのアフリカ系ミュージシャンなのだという。

 この映画を観れば、当初のこのイヴェントを記録しておこうという「強い意志」も感じ取られ、さまざまな角度から複数台のカメラで撮影された映像は、「やろうと思えばあの『ウッドストック』みたいなマルチ・スクリーンも可能だったろう」と思わせられるものがある。
 しかし、こうして今年になって一本の「映画」として完成された映像を観ると、単に「イヴェントの記録」というにとどまらず、当時のニュース映像などを挿入し、この時代のアメリカにおけるアフリカ系の人々を抑圧していた問題があらわにされる。そういう意味でも、今の「Black Lives Matter」へと継続する「問題提起」の作品とも言えると思う。

 とにかくわたしはこの1969年当時、勉強そっちのけで毎日ラジオにかじりつき、アメリカのヒットチャートを追っかける日々を送っていたもので、この映画に出てくる、当時人気絶頂期にあったアフリカ系のミュージシャンはみ~んな知っていたし、もっとルーツ・ミュージック的なゴスペルやブルース、そしてジャズなどはその後に「学習」したので、今になってこの映画を観て、知らないミュージシャンというのは2組ぐらいのものだっただろうか。
 「あのミュージシャンも良かった。このミュージシャンも!」というのを列挙して行きたい誘惑には屈してしまうのだけれども、まずはマヘリア・ジャクソンの歌唱、そこにデュエットで重なるメイヴィス・スティプルとの共演には観ていて涙があふれたし、この映画を観るまでは「My Baby Just Cares For Me」の印象などから、ちょっとブルージーなジャズ系弾き語り歌手だと思っていたニーナ・シモンが、ここであまりに強烈なメッセージを発されていたことにまったく驚いてしまった(彼女はこの翌年の1970年にはアメリカを離れてリベリアに移住し、しばらくは音楽から離れた生活をされていたらしい)。
 スライ&ザ・ファミリー・ストーンが、ラストに『ウッドストック』でのパフォーマンスとおんなじなパフォーマンスを見せてくれるけれども、『ウッドストック』の映像とは違って、バックのミュージシャン、とりわけトランペットのシンシア・ロビンソンを捉えた映像が多かったのにはとにかく喜んでしまった。

 映画の中ではそんなスライらの音楽を「サイケデリック・ソウル」と紹介していて、「なるほどな」と思ったけれども、この映画にはもう一組、そんな「サイケデリック・ソウル」と分類されそうなバンドも出演していた。それはチェンバーズ・ブラザーズというバンドなのだが、この映画のチラシにも映画の公式サイトにもこのバンドの名前が出ていなくて、悲しい思いをした。映画の中でも早い段階で登場し、バックにいろんなナレーションや映像が重なっていてあんまりじっくりと聴くことが出来なかったのが残念だった。誰も言わないが、この時代、アフリカ系のミュージシャンが結成した「ロック・バンド」として「先駆的な」貴重なバンドではあったと思っている(このバンドのドラマーは白人ではあったし、これ以降も、アフリカ系ミュージシャンによるロックバンドというのはまるで存在しない)。ちょびっとでも、その演奏シーンが見れたのがうれしかったが。

 あと、そういう「チラシにも公式サイトにも名前が載っていないじゃないか!」というのでは、わたしが熱愛するゴスペルの名曲「Oh Happy Day」を歌ったエドウィン・ホーキンス・シンガーズのことを書きたい。ここでついにわたしは、この曲でリード・ヴォーカルをとるドロシー・モリソンの姿を見ることが出来た。
 あのレコードの生む高揚感には「いまひとつ」というところもあったが、やはりわたしにとっては「20世紀の名曲」のひとつではあった。
 その他、アビー・リンカーンマックス・ローチだとか、グラディス・ナイト&ピップスだとか、デヴィッド・ラフィンだとか、ヒュー・マサケイラだとか、見どころ、聴きどころ満載!(ハービー・マンも出ていたけれども、あまりに映像が短かすぎた)

 映画で『ウッドストック』を観たときにも、それはけっこう打ちのめされたものだったけれども、「インパクト」ということでは、この『サマー・オブ・ソウル』の方が『ウッドストック』を上回るかもしれない。また映画館に観に行きたいし、ソフト化されたならば必ず買わなければならない。