ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ゼイリブ』(1988) ジョン・カーペンター:脚本・監督

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  • ロディ・パイパー
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 ‥‥やっぱりまずは、この作品に関しては、例えば蓮實重彦氏の定義した「B級映画」ということをそのままに、とにかくはインパクトの強い映画を撮られたということに感銘するしかない。

 ほとんど「ディストピア映画」として、現代(この作品が撮られたのは1988年)の眼に見える世界の裏側に「陰謀」が進行しているのだと描いた姿勢には感銘する。言っておくが、今の世界にはびこる「陰謀論」と、この映画とはこれっぽっちも関係はない。

 世の中は貧富の差が拡がり不況も激しくなっていて、主人公は職を求めてどこかの都市にやって来て、肉体労働の職を得る。その宿舎(キャンプ)に行ったとき、彼はテレビジャックなどでレジスタンス運動を行う組織に出会う。そんなとき、組織は警官隊の襲撃を受けてたいていは逮捕されてしまうのだが、主人公は彼らのアジトでたくさんのサングラスを見つける。
 主人公がそのサングラスをかけて街に出てみると、テレビ画面の文字、雑誌・書籍の表紙、そして広告の看板などにはみ~んな「従え」とか「考えるな」「消費しろ」などという、隠されたメッセージ(命令)が読めるのだった。そして、街を歩く裕福そうな人たちの顔は「人間」ではなく、髑髏のような存在なのだった。つまり彼らは地球を侵略するエイリアンの「擬態」した姿で、エイリアンらは地球を支配しようとしているのだった。
 主人公は仲間をつくって、レジスタンス運動する人らと合流、エイリアンらに叛逆するのであった。エイリアンらはすでにこの地球に「地下都市」をも建設しているのだった。

 主人公を演じたロディ・パイパーという人物は現役のプロレスラーだったそうで、そのことでこの作品が観念的なドラマというよりは肉弾戦満載のアクション映画的側面が強く、一面で「観て楽しめる」娯楽作品的な仕上がりにもなっている。

 そして、このエイリアンらがやっていた「無意識下でのマインド・コントロール」というものは特に絵空事ではなく、この時代から「広告」などを利用した人心コントロールというのはたしかに語られていたわけだろう。
 ちょうどつい先日、JRの品川駅の広告用デジタル・ディスプレイにいっせいに「今日の仕事は、楽しみですか」という、白地に黒ゴシック体の文字広告が表示され、通勤途中にそれを見た人が「不愉快」と苦情を訴え、その広告はその日のうちに打ち切られたという。

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 これは広告主がどのような意図を持っていたのかは知らないが、どう読んでも「上から目線」の文章は、背後に「あんたらが今日の仕事が楽しみだろうともつらかろうとも、働くしかないんだよ!」というメッセージしか読み取れず、まさに『一九八四年』的というか、この『ゼイリブ』的なディストピア世界をあらわしているだろう。この一歩先には「考えるな」「消費しろ」というメッセージがあるわけで、実は2021年のこの世界が、「新自由主義」的な路線をすすめようとする支配者層による『ゼイリブ』の世界なのだということだろう。まだわたしたちは、このような反動メッセージに「ノン!」を突き付け、撤回させるパワーは持っているようだ。このパワーを失ってはいけない。

 というわけでこのジョン・カーペンターの映画、単なる「風刺」を超えて、特権階級がじっさいには何を欲しているのかということもあらわにし、「ディストピア映画」の秀作には仕上がっていると思った。