ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

2021-10-09(Sat)

 昨日、働きすぎたのだろうか。今日は朝からぐったりしていて、一日ずっとゴロゴロとしていた。一歩も外には出なかった。
 それでこの日はずっと、一昨日到着した本を読んでいたのだった。書くこともないのでこの本のことを少し書くけれども、おそらくはたいていの人にとって、興味のない本だろうとは思う。そもそもが洋書だし。

 その本はRose Simpsonという人の書いた『Muse Odalisque Handmaiden (A Girl's Life In The Incredible String Band)』といい、去年イギリスで刊行された本である。

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 この本について説明するとすっごく長くなるだろうけれども、まあ今日は書くこともないのでちょっと書いてみようと思う。辛抱して下さい。
 まず、この本のタイトルを訳せば、『Muse(文芸を司る女神)、Odalisque(ハーレムに仕える女奴隷)、Handmaiden(侍女)』というところだろうか。副題の「A Girl's Life In The Incredible String Band」のIncredible String Bandとは、1960年代後半から70年代初期にかけて、イギリスでカルト的な人気があったフォーク・バンドである。著者のRose Simpsonは、そのIncredible String Bandに1968年から1971年まで在籍したメンバーであった。
 ほとんどの人は知らないだろうけれども、Incredible String Bandは1969年夏の、あのウッドストック・フェスティヴァルに出演したバンドでもあった(もちろん、映画『ウッドストック』には登場しないのだが)。

 やはり軽く、そのIncredible String Bandのことを書かなくてはならないだろうけれども、このバンドは今でもわたしが最も愛するバンドではある。中心メンバーはRobin WilliamsonとMike Heronの二人で、バンドのレパートリーは基本この二人それぞれの書いた曲によっていて、この二人は「Lennon=McCartney」に匹敵するソングライティング・チームとまで言われていたのだ。彼らの2枚目のアルバム、「5000 Spirits or The Layers Of The Onion」と3枚目の「The Hangman's Beautiful Daughter」(このレコード・ジャケットにRose Simpsonが写っている)は当時のイギリスの音楽シーンに大きな影響を与えた。Paul McCartneyも彼らの音楽を愛したし、Rolling Stonesの「Their Satanic Majesties Request」は、Incredible String Bandの影響のもとに製作されたという。アメリカでもBob Dylanが彼らの曲を絶賛したこともあったのだ。シタールやウードなど、その他諸々さまざまな民族楽器を駆使した音楽は、それこそ「ジャンル分け」も不可能なような魅力を持っていたと思う。その曲を、2曲ほど紹介いたしましょう。

 2曲目の「Creation」は、わたしが最初にこのバンドの音楽に夢中になった「きっかけ」のような曲で、長いのを我慢して聴いていただければその最後のところで、「どうしてこうなるの?」という奇怪な展開をお楽しみいただけるかと思います。

 彼らのプロデューサーが、かつてPink FloydSoft Machineにも関わり、Fairport ConventionやNick Drakeをも手掛けたJoe Boydだったということも、BeatlesのプロデューサーがGeorge Martinだったことに匹敵する重要なことだったとは思う。
 しかしこのあと、Incredible String Bandのメンバーらは、あの「サイエントロジー」にどっぷりとはまり込んでしまう。このことは「ドラッグ・カルチャー」の路線として「そういうことにもなるだろう」ということではあるけれども、当時のロック/フォーク・バンドでここまでに「サイエントロジー」にはまり込んだバンドというのも空前絶後ではあった(ちなみに、先に書いておけばこの本の著者のRose Simpsonはそんなバンドの指向に違和感もあり、1971年にバンドを脱退するのだが)。

 Incredible String Bandの、「ウッドストック」での舞台は「悲惨」だった。ほんとうは金曜の夜、Joan BaezやMelanieらフォーク・シンガーが多く舞台に上がる日に出演の予定だったのが、降り始めた雨のため、(このときには電気楽器の使用にこだわっていた彼らは)翌日の昼に出演を延ばしたのだが、彼らの前後はCanned HeatだとかKeef Hartley Bandとかのブルース系だったし、そもそもその時にIncredible String Bandがやった曲は、「サイエントロジー」のプロモーションだといわれてもしょうがないような曲だったりもした。う~ん、やっぱり、Crosby, Stills and Nashが夜の舞台であれだけ映えたこともあるし、Incredible String Bandらも「金曜日の夜」の舞台だったなら、もう少しは注目を浴びたのではないかとも思ってしまう。
 このときのウッドストックの舞台は、YouTubeで検索すれば見れるのだけれども、そこには「動くRose Simpson」の姿も見られるだろう。
 この時期、Rose Simpsonはベースギターを学びはじめ、そのレコードで卓越したリズム感を披露しはじめることにもなり、のちにSteve Winwoodは自分のソロアルバムに、彼女を「ベース・プレイヤー」として招いたという(そのときには彼女は音楽界からリタイアしようとしていたこともあり、実現はしなかったが)。下がその、ウッドストックでのバンドのライヴ映像っす。「どこのヒッピーたちがまぎれ込んで来たねん?」という空気感満載ですが、聴く人が聴けば「こいつら、タダモノではない」とおわかりいただけるでしょう。

 さらに困ったことに、Incredible String Bandは翌1970年、サイエントロジー思想と自らの音楽とを統合し、「音楽とダンス」との舞台「U」というのをぶち上げる(この舞台のサントラ的な2枚組のアルバムもリリースされたが、わたしは好きなアルバムではあるし、Roseの素晴らしいベースギターを聴くこともできる)。まあBeatlesでいえば「Magical Mystery Tour」的なものではあったのだろうか。ここまでは彼らの「サイエントロジー」への傾倒に苦々しい思いを抱きながらもプロデュースに付き合っていたJoe Boydはこの舞台を観て、「Disaster!」との言葉を残してついにプロデューサーをリタイアし、時を同じくして、Rose Simpsonもグループを抜けた。
 しかしその後もグループはメンバーをとっかえひっかえしながら、かつての「魔術的サウンド」を失いながらも、より「ロック」に近接した4枚のアルバムをリリースし(中にはわたし的には好きなアルバムもある)、1974年に解散するのだった。

 Robin WilliamsonとMike Heronはバンド解散後もソロ・キャリアを積み重ね、ときどきはIncredible String Bandの再結成みたいなこともやっているようだし、Mike Heronは小さなライヴハウスでの日本公演もやった。もちろんわたしも行ったけれども、「この人、あのウッドストックの大舞台にも立った人なんだよな」と思うと、何か感慨深いものがあった(もっと、メンバーのもう一人の女性だったLicoriceについても書きたかったけれども、めっちゃ長くなってしまうので彼女については今日は書かない。別の機会に書くかもしれないけれども)。

 ‥‥長々と書いてごめんなさい。それでこの『Muse Odalisque Handmaiden』の本にようやく戻るけれども、シニカルなタイトルに読み取れるように、当時(今も?)の音楽シーンの中での「女性」の立ち位置にも言及されているだろうか。
 Rose Simpsonはグループ脱退後に大学へ行き、ドイツ文学の博士号を取得し、一時期のネットでの記述ではスコットランドのどこかの町の町長だか市長になったということも書かれていたと思うが、今はそういう記述も見つけられないので、「誤り」だったのだろうか。
 しかしおそらくはこの本は、単純に「わたしは昔は有名なバンドのメンバーだったのよ」ということではなく、もっとジェンダー的な、フェミニズム的な視点から、当時の音楽シーンへの「批判」も書かれているのではないかと思う。わたしはペラペラとめくって読んでみて、やっぱり「わからない単語」が多いというか、わたしの英語力でスラスラと読めるような本ではない(もちろん、わたしの英語力ではどんな本だろうが「スラスラ」と読めるわけもないのだが)。

 今日はとにかくは「辞書を使わないで」どのくらいわかるかと読み進め、大学の登山部のリーダーだったRoseが、登山部の拠点だった山小屋がまたRobinとMikeがよく訪れるスポットだったことから、彼らと知り合うところ、「The Hangman's Beautiful Daughter」のジャケットを撮影するところまで読んだ。まだこのあたりまでは読みやすいか。