ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『Nora』(2000) Pat Murphy:監督

 日本では『ノーラ・ジョイス 或る小説家の妻』というタイトルで公開された作品。ジェイムズ・ジョイスを演じているのはユアン・マクレガーで、相手のノラ・バーナクルを演じるのはスーザン・リンチ。この映画のベースになったのは、実は先日わたしも買ってしまった、ブレンダ・マドクスという人の書いたノラ・バーナクルの伝記で、映画公開のおかげで日本でも翻訳が出ていて、日本版のタイトルは『ノーラ ジェイムズ・ジョイスの妻となった女』というものだった。買ってみてわかったのだが、この邦訳は「全訳」ではなくって全体の三分の二ほどの「抄訳」だったのだが。

 というわけで、わたしは全篇アップされていたYouTubeで観たわけだけれども、やはりわたしにはこういうドラマの「聞き取り」はとうてい無理ではあったし、自動生成の英語字幕というのも正確ではないし、タイミングにズレがあるし、おまけに複数の人物の異なるセリフが改行なしに連続して表示されるし、けっきょくほとんどわからなかった。
 ただ、ちょうど読んでいる『ジェイムズ・ジョイス伝』がちょうど息子のジョルジオ誕生のあたりまで読んでいたので、そういうところではノラの伝記だろうがジェイムズの伝記だろうがおんなじなので、だいたいの展開は理解できるのだった。

 どうもこの映画は、ジェイムズの『ダブリンの人びと』出版前の最後のアイルランド帰還までを描いているようではあった。
 けっこうジェイムズとノラとの出会い、その1904年6月16日の「最初のデート」など、ちゃっちゃっと手早く描かれ、二人の大陸への出奔も、じっさいはまずパリへ行くはずなのがいつの間にかトリエステになってしまっているし、例えば船出のシーンとかがあるわけでもなかったので、言葉もわからずに観ていると特に「大陸に来たのだ」という雰囲気は伝わりにくかったか。

 最初に二人が大陸に着いて、ジェイムズがノラをひとり公園に残して金策に出てしまうシーンとか、ジェイムズが雷がこわいのだ、などというシーンもあり、『ジェイムズ・ジョイス伝』を読んでいてよかったとは思ったりした。

 まあわたしとしては、これははっきりと観て理解した作品とも言いがたい作品ではあったけれども、わたしにとっていちばんうれしかったのは、アイルランドのトラディショナル・ソングがいくつか聴けたことだっただろうか。誰かの歌う「Banks of the Bann」もちょこっと聴けたし、何よりも、主演の二人(ユアン・マクレガーとスーザン・リンチ)が、『ダブリンの人びと』の中の『死者たち』で印象的に使われた「The Lass of Aughrim」をじっさいに歌って聴かせてくれたことだろうか。