ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『カサンドラ・クロス』(1976) ジョルジュ・パン・コスマトス:監督

カサンドラ・クロス [DVD]

カサンドラ・クロス [DVD]

  • 発売日: 2001/04/27
  • メディア: DVD

 カルロ・ポンティが製作総指揮を取り、西ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、アメリカによる合作の、ごく初期の「バイオハザード・サスペンスパニック」映画。さすがカルロ・ポンティが絡んでいるからか、出演者が実に豪華絢爛たるものである(といっても、一般に知られたビッグネームはソフィア・ローレンバート・ランカスターぐらいかもしれないけれども、「こんな人も!」というような方々が出演されている)。

 ストーリーはまず、ジュネーヴの国際保健機構本部の建物に3人のテロリストが潜入し、テロには失敗するのだけれども、アメリカが極秘に保有する細菌培養室に逃げ込んで、病原菌のケースを破壊する。そのうち1人が建物から逃走し、ジュネーヴストックホルム行きの「大陸横断鉄道」の車両内に逃げ込むのだった。残されて生き残ったテロリストは未知の細菌に感染しており、重体に陥っている。国際保健機構の主任医師のシュトラドナー博士(イングリッド・チューリン)とアメリカ軍大佐のマッケンジーバート・ランカスター)とが対策に当たるが、マッケンジーは細菌がアメリカが極秘に培養していたものであることを隠ぺいしなければならない。
 逃走したテロリストは大陸横断鉄道に逃げ込んだものと判明する。列車には神経外科医のチェンバレンリチャード・ハリス)、その元妻で作家のジェニファー(ソフィア・ローレン)、兵器製造業者夫人のドレスラー夫人(エヴァ・ガードナー)とその愛人、実は麻薬の運び屋のナバロ(マーティン・シーン)、ユダヤ人の時計セールスマンのカプラン(リー・ストラスバーグ)などなどのメンツが乗り合わせていてさて大変!
 マッケンジーが列車に連絡を取り、感染したテロリストを探すのだが、すでに多くの乗客が彼と接触しており、感染して具合が悪くなるものがすでに相次いでいる。

 どこか民家などのないところで早急に列車を停車させて、感染者を含む乗客全員を隔離すればいいように思うが、マッケンジーはすべてを隠ぺいするために軍と連絡を取り、列車はノンストップでニュルンベルクへと進路変更させ、そのままポーランドのヤノフというところにある隔離施設(実は大戦中には「収容所」だったらしい)まで行かせるつもりである。
 列車では主にチェンバレンがリーダー的に乗客をまとめ、マッケンジーらとの連絡に当たることになっているが、マッケンジーの理不尽な計画に納得がいかない。列車はニュルンベルクで停車し、そこで防護服に身を包み武装したアメリカ軍兵士が多数乗り込んできて、乗客を威圧するのだった。

 さらに、列車はヤノフへ到着する前に、「カサンドラ・クロス」という30年も使われていない老朽化した鉄橋を渡ることがわかる。その鉄橋を知っているものは、橋はとても列車の通行に耐えられず崩壊し、列車は何十メートルも下の川に落下するという。チェンバレンらもその情報を得るが、さて、どうなるか???

 感染率60パーセントとか言われた「謎の細菌」で、治療法も見つからないのだけれども、なんと! 高密度の酸素に弱いということがわかり、列車内の高密度酸素のおかげで感染していた人たちは半日で快方に向かうのであった!
 「何だよな~」とは思うが、マッケンジーは隠ぺい工作を継続させ、実はカサンドラ・クロスの鉄橋が崩落する危険があることは百も承知で、列車乗員乗客ぜんぶまとめて突き落とし、「細菌漏洩」の事実を闇に葬ろうとしているらしいのである。もちろんシュトラドナー博士は猛反発するが、そんなことでくじけるアメリカ軍人ではないのである。

 列車内では、チェンバレンらの計画で何とか鉄橋の前で客車を機関部と切り離そうとの計画が進められる。いくつかの計画が失敗し犠牲者も出てくるが、最悪の「全車両転落」を防ぐため、客車のとちゅうで切り離す案を実行することになるのだった。さてさて‥‥。(いちおう、結果どうなったのかネタバレ的に書いておきますが、読みたくない方は右の「*1」をクリックしなければOKです)→*1

 「その設定はムリがあるだろう?」「それってどういうこと?」「そう来たか!」「今度はこう来たか!」というようにプロットは目まぐるしく変化していくのだけれども(ラストにはもう、この事件の発端のことなどどうでもよくなってしまう)、列車内の撮影や外からのヘリ撮影などを駆使して緊迫感を盛り上げ、わたしもハラハラドキドキしながら観てしまった(さいしょの方で、テロリストが列車に跳び乗るのを追うカメラが、そのまま列車に乗り込んでさらに反対側に降り、そちらの人物や情景を撮るショットなど、「なかなかのものではないか」などとは思ったのだった)。いちおう様々な有名俳優も出ているところから、ぽちぽちと「それぞれのドラマがある」グランドホテル的な群像劇という構成にしたかったようだけれども、これはかなり中途半端に終わっている(わたし的には、せっかくアリダ・ヴァリが出ているというのに、ほとんどセリフもなく顔のアップもほとんどないままだったのが残念だったが)。ま、チェンバレン博士と元妻のジェニファーはよりを戻すし、この二人こそ大活躍だったわけだし、ほとんどリチャード・ハリスが主役だっただろう。やはり「ファロンはチャンピオン」なのだ(あとで調べたら、さいしょはリチャード・ハリスの役はピーター・オトゥールにオファーされていたとのことで、つまりピーター・オトゥールはこの役を蹴ったのだ。ソフィア・ローレンは当時カルロ・ポンティ夫人で、彼の指名でこの大役を得たらしい。そのせいか、彼女は映画の中でも始終いつもニコニコしているように見える)。
 さて、けっきょく隠ぺい工作のうまくいかなかったマッケンジー大佐だが、どうやらすべてを彼のそばで監視していたスタック少佐(懐かしのジョン・フィリップ・ロー)がこのあと、指令を受けて行動するのだろうかね、というラストだった。

 こういう、なかなかのオールスター・キャストでのサスペンスパニック映画というと、この作品の2年前にアメリカで公開された『ポセイドン・アドベンチャー』のことを思い出したりもするけれども、じっさいにこの映画のヒントになっていたのかもしれない。合作国の中にアメリカも含まれているとはいえ、基本はヨーロッパ側が主に製作を進めたようで、そのことはこの映画の中でアメリカがほとんど「悪役」として描かれることにもなったのだろうか。
 当時のロサンゼルス・タイムズはこの映画の評として、「文字通り悲惨でひどい災害の映画だが、意図せずに陽気だ」と書いたらしく、このあたりの評がけっこう当たっているように思える。
 

*1:列車は「カサンドラ・クロス」手前ギリギリのところで食堂車の連結部を断ち切ることに成功し、前半分の一等車の部分のみ鉄橋に入っていく。それで予測通りに橋は列車ごと崩壊。多くの乗客は二等車の方へ逃れて助かるけれども、逃げ遅れた人たちは列車と共に崩落する。ここのところの映像がけっこう迫力があって、鉄橋の崩壊と落下する列車はおそらく特殊撮影ではなく本当にやってるように見えるし、落下するときの車内の様子、人々の阿鼻叫喚はけっこう強烈(これは特殊撮影だったけれども)、しかもカメラはしつっこくも川に落下した列車の残骸、川を流れる遺体とかもしっかり写し出していて、いくらフィクションだとわかっていてもけっこう「悲惨な光景」ではあったのだ。