ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『もらとりあむタマ子』(2013) 向井康介:脚本 山下敦弘:監督

もらとりあむタマ子 [Blu-ray]

もらとりあむタマ子 [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/06/25
  • メディア: Blu-ray

 前田敦子出ずっぱり主演。前半の撮影には芹澤明子の名も。設定場所は舞台になるスポーツ用品店の店名からも「甲府」なのだろう。

 タマ子(前田敦子)、23歳。大学を出てそのまま実家に戻ってきて、就職活動もせずに「食っちゃ寝」のダラダラ人生遂行中。実家といっても離婚して一人暮らしのお父さんがひとりで「スポーツ用品店」を切り盛りし、炊事洗濯掃除とぜ~んぶお父さん。タマ子は「家事手伝い」すらしないのだ。
 まあ普通であればお父さんは「いつまでブラブラしてるつもりだ」と怒り、家庭内はギクシャクきな臭くなりそうだし、けっこう早い段階でそういう父娘のやりとりもあって、父は「就職活動しないのか」みたいに問うのだけれども、タマ子は「少なくとも今ではない!」と切り捨てる。見ていて、タマ子の部屋の掃除をやり、タマ子の下着も洗濯して干してあげてる「お父さん」、やさしいな~、って思ってしまう。ここに「ひとつの幸福のかたち」があるようにも思えてしまうわたしもまた、「ダラダラ人生」をやりたいのだろう。

 その後タマ子も「ついに就職活動を始めるのか」という展開になったり、お父さんに「再婚のいい話」があるのではないのか、みたいな紆余曲折はある。そしてそんな「就職活動(???)」のための写真をスポーツ店に来た写真屋の息子の中学生に頼んだりして、「ほのぼの」な中学生との交流もある。

 わたしはずっと山下敦弘監督の作品が大好きだったはずで、けっこう彼の作品は観ているはずだけれども、その記憶障害のためにまるっきし記憶していない。それでもやはりこの作品は大好きで、こういう、「説明」ではない「絵」で映画を進めていく演出は、わたしの大好きなタイプだ。この『もらとりあむタマ子』の短かい(78分)尺の中に、「映画」の魅力がいっぱい詰まっている。短かく挟まれるセリフもまさに的確で、そして笑いを誘う。何度でも見返したい作品だ。

 そんな中で、タマ子の高校時代の同級生らしき女の子が駅の東京方面行ホームで電車を待つショット、それをタマ子は目撃しているのだが、その女の子はめっちゃ悲しそうで、「わたしは負けて<東京>へ行こうとしてるのよ」みたいな雰囲気でもあり、つまりこの映画のもうひとつイイところは、「夢も希望もみ~んな<東京>にあるのよ」などというステレオタイプな視点をとっていないところにもあると思う。

 さいごにそんな「再婚話」とかあった中、「もう他人と暮らそうとは思わない」というお父さんは、タマ子に「秋になったらウチを出て行け!」と宣言し、実はタマ子は内面でそう言われることを待っていたりもするわけで「正解!」と答える。
 しかしそのあとは、タマ子がスポーツ店の開店の準備をする映像、自分で洗濯をしている映像とつづくわけで、なんだかこのまま、タマ子はお父さんを手伝ってそのスポーツ店をいっしょに切り盛りして行くのではないかとは思えてしまう。つるんでいた中学生の男の子の「成長」も目の当たりにして、タマ子自身も「成長」してしまうのではないかと思えるラストだった。

 わたしがこの作品でいっちばん好きなシーン(場面)は、けっこう始まってすぐの、タマ子がお父さんのつくったラップのかかった「ロールキャベツ」をラップをはがして食べるところで、むむむ、ロールキャベツというのは食らいつくと「ゲゲゲ!」という食べ姿になるわけだな、というのを見せてくれたところだったりする。人前でロールキャベツを食べるときには(まあそういう機会も今後ないだろうけれども)気をつけなければならないな、などとは思ってしまうのであった。