ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ランナウェイズ』(2010) シェリー・カーリー:原作 フローリア・シジスモンディ:脚本・監督

ランナウェイズ [DVD]

ランナウェイズ [DVD]

  • 発売日: 2011/08/26
  • メディア: DVD

 「ガールズ・ロックバンド」の歴史をたどれば、まずは60年代末に出てきた「The Shaggs」という、何ともどう評価したらいいのかわからないバンドが思い出されるのだけれども、(それはあまりに「異質」なので抜かしといて)パンクの時代になるとイギリスを中心に多くのガールズ・バンドが登場してきた。「Slits」とか「X Ray Spex」とか「Delta 5」とかいろいろあったけれども、そんなパンクの時代よりもちょっと前に、アメリカでは「Runaways」が登場した。これがなぜか日本でブレイクして大人気になり、わたしも当時テレビで彼女らの演奏を見たものだったし、あのときは普通の週刊詩まで彼女たちに取材していた記事も読んだ記憶がある。そのときはヴォーカルのシェリー・カーリーばかりが話題になり、まあそれも彼女のコスチュームのコルセットとガーターベルトだけ、というあたりにも理由があったわけで、日本のオヤジ連中も「お、おう!」と鼻の下を長くしたのだった(きっとね)。
 その日本公演も彼女らの「不和」に輪をかけたらしく、人気も下火になっていつしか解散してしまったらしいのだけれども、ところがそのあと、メンバーのギタリストだったジョーン・ジェット(そもそも、「Runaways」も彼女の意志で生まれたバンドだった)が「Joan Jett & Blackhearts」のフロントとして登場し、「Runaways」なんか問題にならない世界的な人気を博してしまうのだった。今でもわたしも、「女性ロッカー(ギターも弾く)」で誰がいちばんか?とか考えると、メジャーに成功を収めたミュージシャンでいえば、「Pretenders」のクリッシー・ハインドか、このジョーン・ジェットのどちらかという気がする。甲乙つけがたい。

 ということで前置きが長くなってしまったけれども、これはその「Runaways」の伝記(と言うのか)映画である。実はわたし、この映画が公開当時、まあ懐かしい「Runaways」の映画ではあるし、クリステン・スチュワートとかダコタ・ファニングが出てることだし、映画館に観に行ったのでした。
 もうそのとき観た記憶など残っていないのだけれども、ただ、日本公演のときシェリー・カーリーに扮したダコタ・ファニングが、ステージのドラッグ錠剤をヒールで踏みつぶし、そのドラッグをうつぶせて舐めとるショットで、ダコタ・ファニングの「いつまでも子役ではない」という女優魂を見た思いがしたこと、そこだけは記憶していた。それ以来、10年ぶりぐらいの再見である。

 むむむ。これはまた、正直言って「へったくそ」な演出の映画だなあ。なんでもシェリー・カーリーの書いた「自伝」を基にしたものだというが、プロデューサーにジョーン・ジェットも名を連ねているわけで、おそらく監督はシェリー・カーリーの原作とジョーン・ジェットの「いや、それは実はね」みたいな話の板挟みになってしまったのではないかとも思う。ドラッグ問題とかシェリーの家族の問題とか、「あとは想像力で補ってよ」みたいなのが多すぎる(ところで、ここでシェリー・カーリーの母親を演じてちょこっと登場していたのは、あのテイタム・オニールなのだったらしい。わかんなかったよ。というか、新旧子役役者が3人集合していたのだ)。

 ただ、ライヴハウスの映像とか、特にトレーラーハウスでのリハーサルというか練習のシーンはとっても良くって、「ははあ、この監督さんはきっと、プロモーションヴィデオとかのキャリアのある人なんだろうな」とは思った(あとで調べて、大当たりだったが)。
 ここで、プロデューサーのキム・フォウリー(この実在の人物はフランク・ザッパも彼のことを語っている60年代の「伝説」の人物でもあるのだけれども)を演じるマイケル・シャノンが「イイ感じ」というか、「この映画はマイケル・シャノンクリステン・スチュワートダコタ・ファニングのパフォーマンスを見る映画なのだな」と、強く思うのだった。
 妙に「ドラマ」の演出を観ようとするのではなく、この3人の演技を観ていればいいのだ。そんな映画だと思った。ちなみにこの監督さん、長編デビュー作のこの作品のあと何本か短篇を撮り、今年の初めに2本目の長編映画として、あのヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を映画化したものが公開されたらしい。ちょっと観てみたいのだけれども、知られた俳優さんも出ていないようだし、そもそもの評判も芳しくないようなので、やはり日本での公開は無理なんだろう。