原題は「You Will Meet a Tall Dark Stranger」で、映画の中で語られる「人生の最後に<長身で黒髪の死神>に出会う」というセリフから。何か典拠があるのかと調べたら、1969年にカントリーシンガーのBuck Owensのヒット曲に「Tall Dark Stranger」というのがあったが、この曲は男に「長身で黒髪の見知らぬ男」があんたの恋人をさらって行ってしまうぜ、と唄う曲なわけで、この映画のように「死神」というわけではなかった。
これはロンドンに住む老夫婦とその娘夫婦を中心に、自分の足元を見失って幻想に迷う大人たちを描く作品。出演者はけっこう豪華で、アンソニー・ホプキンス、ナオミ・ワッツ、ジョシュ・ブローリン、アントニオ・バンデラスなどなど。ジョシュ・ブローリンが恋に落ちるアパートの向かいの窓の女性のこと、見た覚えがあると思ったら、フリーダ・ピントーという『スラムドッグ$ミリオネア』に出ていた女優だった。撮影もヴィルモス・スィグモンドで、ここではアパート内での人物の交差をワンショットで撮る場面が印象に残った。
ただ、物語は登場人物の愚かな行為をいくつも並列するようなもので、ウディ・アレンのわたしが好きになれないスノッブさがまさに全開という感じ。見ていてただ登場人物の愚かさを笑うだけのようで、特にタイトルにあるような死神が登場してきてビターな味わいを残すわけでもなく、ある意味で観客は登場人物らの愚行を<嘲笑>するだけになる。逆にそういう作劇を不快に感じる観客もいるわけで、わたしはそういうひとりだった。