ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ナボコフ書簡集2(1959-1977)』ドミトリー・ナボコフ/マシュー・J・ブルッコリ:編 三宅昭良:訳

ナボコフ書簡集2

ナボコフ書簡集2

 ナボコフの『ロリータ』は紆余曲折の末、ついにアメリカでも刊行されて「超」ベストセラーになる。経済的問題から解放されたナボコフコーネル大学を辞め、ヨーロッパはスイス、モントルーのホテルに夫妻で住まいを定める。まずの懸案は『イーゴリの遠征の歌』、そしてプーシキンの『エヴゲーニー・オネーギン』の翻訳出版であり、スタンリー・キューブリックの『ロリータ』映画化に協力し、その脚本を執筆することである。さらに新作『青白い炎(淡い焔)』、それ以降の作品の執筆もある。そのあいだにも鱗翅目昆虫の研究も継続するし、名声を得ての雑誌社からのインタヴューもあるし、世界各国からの『ロリータ』翻訳の、その「いいかげんさ」の問題もある。『ロリータ』以外の旧作の翻訳の問題もあり、とにかくいそがしい。晩年にはナボコフが「伝記」を委託したアンドリュー・フィールドの暴走ぶり(事実ではない勝手な推測を書きまくる)に怒り心頭し、ほぼ罵倒する書簡も読めるだろう(ナボコフの伝記は、ナボコフの正統な研究者ブライアン・ボイドによる(信頼のおける)ものが刊行され、邦訳も出ている。いずれ時間があれば読みたい)。
 ここにはじっさいにはエドマンド・ウィルソンとの「大論争」も加わっていたわけで(これはこれから読む別の本)、大変である。そして最晩年にはフランス版『アーダ』のめちゃくちゃさ加減にあきれたナボコフは、すっごい時間を割いてそのフランス版『アーダ』の校正をやるのだけれども、「訳者あとがき」にも書かれているが、こんなことに時間を取られなければ未完に終わった『ローラの原型(オリジナル)』もちゃんと書き上げていたのではないかということだ。

 ここにあるのは、メディア社会の中で自分の「虚像」が広まっていくことにどこまでも抵抗する作家の姿であり、そこにはいちどインタヴューに応じての発言についても、「あれは抹消したい」ということも含まれる。
 それは「ウラジーミル・ナボコフ」という作家の姿(イメージ)を守り通そうとする姿勢であって、そのことは刊行される自著の表紙デザインにも及ぶ。
 「虚像」に抵抗するひとりの作家(人間)のあり方として、それはナボコフの根本的な姿勢であった「社会と個人との軋轢(あつれき)」という問題に立ち向かう彼の姿が想像される。
 『ロリータ』以降のナボコフは、自在に駆使できるようになった「英語」による、「文学」そのものをも対象としたような作品を書くようになったように思えるけれども、やはりその根底には「個人の自由」ということを追い求めた姿があったのではないかと思った。

 とにかくはこの「書簡集」を読んだ上で、また彼の全作品を読み返してみたいとは思うのだった。