ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『溺れるナイフ』(2016) ジョージ浅倉:原作 井土紀州:脚本 山戸結希:脚本・監督

 「GYAO!」の無料配信リストにこの作品があり、「どんな作品なのだろう」と調べたら、まだ若い女性監督の作品で、しかも彼女をさいしょに評価したのは井土紀州氏なのだということで、このコミックを原作とした作品の脚本も井土紀州氏がやっている。「それは観なければ」ということで観た。

 15歳で人気モデルだった夏芽は、家族が祖父の経営する旅館を継ぐために地方の浮雲町というところに転居し、芸能活動はやめることにする。転居先の立ち入り禁止の海で、夏芽はコウという男の子と運命的な出会いをする。コウは学校では同じクラスで、町を仕切るような有力者の家族である。
 クラスには、モデルだった夏芽のファンだったカナ、のちに夏芽が付き合うようになる大友がいる。夏芽は町の「火まつり」の夜、モデル時代からの彼女のファンだったストーカーに襲われる。コウが夏芽を救おうとするがストーカー男に殴られて気絶、しかし追ってきた町の人らに夏芽が救われる。
 夏芽らは高校に進学し、夏芽はコウと会わなくなり、代わりに大友と会うようになる。そしてまた、「火まつり」の季節になる。

 この作品がひとつ印象に残るのは、「そのシーンはそう撮らなくっちゃ!」と思うしかないようなショットの連続だということで、俯瞰ショット、ロングショット、そして移動カメラが実に魅力的で、ちょっとばかし驚嘆する。撮影監督は誰なんだろうと調べたら、柴主高秀という人で、この人は黒沢清監督の『トウキョウソナタ』の撮影を担当していた人だった。
 水中撮影はまた別の撮影監督の担当かも知れないけれども、夏芽とコウとが水中に沈むシーンの、その圧倒的な美しさには惹かれるしかなかった。

 そして、音楽もまた映画の魅力を際立てていたというか、前半ではピアノの音が映像に溶け込むのではない「競演」が心に残り、これはだんだんに楽器のヴァリエーションを拡げながら、クライマックスでは管弦楽器のスコアを聴かせてくれる。

 ストーリー展開も「ちょっとエグい」というか、「さすがに井土紀州」というところもあるのだが、やはり演出面で過去映像と現在とを同列に並行してみせるところなど新鮮だったし、そういう脚本面との絡みで、大友が夏芽のペディキュアの小指だけ「赤」なのを「椿の赤」と言い当ててからの展開は切なくて、実はわたしは涙しながら観ていたのです。

 「これはやはりスゴい才能だ、これからもこの<山戸結希>という人の作品はチェックして行こう!」とは思い、なぜか理由も確証もなく、グザヴィエ・ドランのことを思い浮かべていた。「GYAO!」で配信していなければ決して観ない作品だっただろうけれども、こうやってこの作品と出会うことが出来たのを「僥倖」と思うのだった。