ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『奇跡の丘』(1964) ピエロ・パオロ・パゾリーニ:脚本・監督

奇跡の丘 ニューマスター版[DVD]

奇跡の丘 ニューマスター版[DVD]

  • 発売日: 2009/08/05
  • メディア: DVD

 わたしも昔はけっこう(『王女メディア』までは)パゾリーニの作品が公開されるたびに映画館で観ていたものだけれども、あまりに昔のことすぎて、もう今ではそれらの作品の内容もまるで思い出せなくなってしまった。実に久しぶりに観るパゾリーニ作品。

 この作品は「マタイによる福音書」の忠実な映像化として話題になったもの。戦後にはイタリア共産党にも入党していたパゾリーニだけれども、この作品を観るとパゾリーニはイエスの中に「革命家」の姿をみていたのだろうかと思わされる。と同時に、その過激な教義は「カルト宗教」を思わせるところもあり、そもそも「ワシのような自堕落な人間はとてもキリスト教徒にはなれんな」という気にさせられる。
 実はわたしは、この映画でイエスを演じた俳優の名まえだけは今でもちゃんと記憶していて、そのことにおどろいたのだけれども、エンリケ・イラソキというその男はたしか撮影時にはスペイン人の学生だったと記憶している。凛としたそのたたずまいは他の出演者の中でも超然としていて、「これは普通の人ではない」と思わせられるものがあるだろう。あと、若き日のマリアも美しい人だった(後半に登場する老いたマリアを演じたのは、パゾリーニのご母堂だったということだ)。

 わたしは「マタイによる福音書」を読んだことはないが、それなりに(常識的な次元で)イエスの生涯に関する知識は持っているわけで、映画を観ているとそのあたりの「山上の垂訓」だとか「悪魔の誘惑」、「最後の晩餐」などキチンと描かれていたわけだけれども(あたりまえだ)、思いがけなくもサロメも登場し、ここでサロメが所望した「洗礼者ヨハネの首」のヨハネとはイエスに洗礼を施した人物だったということは、今の今までまったく知らなかった。

 モノクロ画像の、いかにもイエスの生きた時代を思わせる風景にまずは感銘を受け、「いったいどこでロケしたのだろうか」と思ったのだが、これは南イタリアの遺跡で撮影したのだという。
 あとは使用された音楽のことも気になるのだけれども、バッハなどの音楽にまじって、その懐妊したマリアのいる情景ではアメリカのスピリチュアル・ソング「Sometimes I feel like a motherless child」が使われたりしていて、おどろいてしまう(終盤にももういちど、ブルーズが使用されるが)。ここですでに、イエスのその後の内面を音楽によって表現していたのだろうか。