ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『団地妻 迷い猫』(1998) 小林政広:脚本 サトウトシキ:監督

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 またもや「団地妻」だけれども、この作品は「日活ロマンポルノ」ではない1998年の国映株式会社製作・配給の作品。国映は、大蔵映画と並びピンク映画製作・配給の老舗で、日活ロマンポルノなきあと、才能ある監督の活躍の場となった。

 この『団地妻 迷い猫』というタイトルは「GYAO!」での公開でつけ替えられたタイトルで、さいしょの劇場公開時のタイトルは『尻まで濡らす団地妻』という、かなり恥ずかしいものだったが、作品をみるとそのタイトルはただ『迷い猫』と表示されていたようでもある。
 監督のサトウトシキはそういうピンク映画専門の監督でも一般に人気のあった監督で、その作品は海外にも紹介されている。この作品で脚本を書いた小林政広はこの時代サトウトシキ作品の脚本を担当することが多かったが、のちに自ら監督となった人物。
 そしてこの作品の主演の長曾我部蓉子さんだが、実はわたし、この方といちどお会いしたことがある。その名前は存じ上げていたけれどもそれまで観た作品のことを思い出せず、あまりわたしから話しかけられなかったことが残念だけれども、映画のイメージと違ってとても明るい方だった(まあ私生活に映画のイメージを引きずられてもアレだが)。
 あと、この作品には長曾我部蓉子に喫茶店でインタビューする記者として、平泉成さんが出演されている。そして長曾我部蓉子に殺されてしまう彼女の夫役は、わたしがよく舞台で観た寺十吾さんなのであった。わたしにとっては「豪華布陣」であった。

 さて、映画についてだけれども、この作品を『尻まで濡らす団地妻』というタイトルに期待して観た人は、きっと怒り狂ったのではないだろうか。一応「ピンク映画」だから、そういう男女の絡みは何度もあることはあるのだけれども、それぞれの時間は短かいし、いつも布団かぶってるし、画像にエフェクトがかけられていてクリアに見ることは出来ない。
 この作品はつまり、新宿の喫茶店で記者の平泉成が向かいにすわった長曾我部蓉子に、彼女の夫殺しのことをインタビューで聴いて行くという内容。彼女の話に回想シーンがはさまれて映画は進行して行く。
 そのインタビューにおいて、演出は律儀なまでに長曾我部蓉子と平泉成のバストショットの切り返しをつづける。時に喫茶店の窓の外の木立が写され、そしてテーブルの上の録音ウォークマンもたびたびアップで写される。平泉成は彼女の話に多少の困惑の表情もみせるのだが、長曾我部蓉子はどこかふっ切れたように不敵な笑みを浮かべながら毅然とした表情で語りつづける。
 インタビューのシーンと対立するように、回想の映像はそれぞれが映画的魅力に富んでいる。夜の新宿のバス停のそばで、壁に背をつけてたたずむ彼女のショットがインタビューでの彼女の表情との距離を見せ、その青白い明かりがまた美しい。海辺の砂浜に足を入れ、波に足を濡らすショットも印象に残る。そして夫を金属バットで殴り殺すシーンの鮮烈さ。バスタブの中の夫の死体。
 夫殺しのあとに彼女は群馬の父の墓に墓参りに行き、そのあと裏日本の民宿にしばらく滞在したという。墓参りのシーン、そして裏日本の民宿ので~んとしたショット、裏日本の海の日の入り(すいません、今では「裏日本」という言葉は使わない方がいいのですが)。すべてが印象的に記憶に残る。
 喫茶店で2杯のコーヒーとバナナジュースを飲み、そこでテープが終わるので「ここまでにしましょう」とインタビューは終わる。「わたしは父のイメージを求めていたのかもしれませんが、それはかなわなかったようです」と、彼女には父の世代に当たるようなインタビュアーに語る。彼の困惑したような表情はずっと変わらない。
 インタビュアーと別れ、西新宿を歩く彼女を、カメラはずっとワンショットで追っていく。
 物語がすごいとかそういうのではなく、「映画」としての表現が心に残る、そんな作品だった。