ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『団地妻 昼下りの情事』(1971) 西村昭五郎:監督

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 わたしもこのあたりの記憶は多少なりと残っているのだけれども、昔の映画館というのは、つまりは洋画の新作を封切り上映する「封切館」、そしてそれが順繰りに回ってきて2本立てとかになる「2番館」とがあって、邦画五社の作品はたいてい最初から2本立てで、「邦画館」とか呼ばれていたかもしれない。まあこれがさらに崩れて「3番館」とでもいえるような、洋画も邦画もごっちゃまぜの場末の映画館もあったのだが、これ以外に、「未成年者及び堅気の人は行きませんね」という「大蔵映画」の上映館というのがありまして、まあこれは「ピンク映画」ですね。ちまたでは「エロ映画」とも言っていましたが。つまり「18歳未満お断り」「成人映画」なんだけれども、中学のとき、みんな何とかもぐり込んで観ようとはしていたわけです。まあ「ビニ本」なんてモノもない時代ですから(北野武の『キッズ・リターン』だったか、そうやって噴飯ものの扮装~仮装で映画館に入ろうとするしょ~もないギャグがあったと思う)。

 それが突然に、大手五社の中の「日活」が、経営難からまるで「大蔵映画」みたいなピンク映画路線に移行してしまうのですね。それを「日活ロマンポルノ」という。まあ今考えるよりも「ポルノ」ということばは柔らかく捉えられていたようだけれども、つまりは「邦画館」で「ピンク映画」が上映されるようになったと。これはけっこうビッグニュースで、いろいろと話題にもなり、そんな「日活ロマンポルノ」で主演した女優さんがすっごい人気が出たりしたわけだけれども、これが「日活」の方針として、映画の中で一定の割合で「絡み」のセックスシーンさえあれば、そのテーマや演出に関して口を出さなかったということで、日本映画の枠を越えた作品がいろいろと製作されたわけで、今では「伝説」にもなっている。その第1作が、この日に観た『団地妻 昼下りの情事』。

 この作品の監督は西村昭五郎という人で、京都大学の仏文科を出た人らしいのだけれども、多作で、かなりの数のロマンポルノ作品を撮られたらしい。この『団地妻 昼下りの情事』はどうも、主婦売春というテーマからもゴダールの『彼女について私が知っている二、三の事柄』からけっこうな影響を受けているらしいけれども、わたしはその『彼女について私が知っている二、三の事柄』はまるで記憶から抜けてしまっているので、そのあたりのことは何とも言えない。
 主演はのちに「ロマンポルノの女王」とも呼ばれることになる白川和子で、まあこういう「濡れ場」を演じた経験のない人がすぐにこういう演技が出来るわけもなく、彼女はこの作品の前、5年間に230本ものピンク映画に主演していたという。それが日活にスカウトされたわけで、この作品でも貫禄の演技を見せてくれます。

 映画は夫との夜の生活に不満を抱いていた妻が、同じ団地内の主婦売春組織にスカウトされてコールガールとしてのし上がっていくのだけれども、紹介された外人客が実は夫の紹介だったことからすべてが破綻、売春組織の幹部女性を殺害して高校時代の同級生の男と逃げるが‥‥というもの。
 いちばんさいしょのショットがそういう「団地」の高い位置からの俯瞰ショットで、これがどこのベランダにも布団が干されていて、ちょっとそういう光景がリアルなものとして驚かされてしまう。それが「日常」なんだよね。それで彼女の仕事場のホテルの部屋の原色ライトが「非日常感」を盛り上げる。
 まあ一人の女性の内面がどうとか、社会的な視点があるとかいう作品ではなく、展開も寓話的というか。
 ラストに車で逃走する二人が車の中でとんでもないことをし始め、「おいおい、運転しながらそ~んなことをやっては(やらせては)いけません!」とか思い、「やっぱ日活さんも路線転換第1弾だから、がんばって車の一台ぐらい破壊して見せるのかな~?」とは思うのでした。