ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『霧につつまれたハリネズミ』(1975) ユーリー・ノルシュテイン:監督

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 観た人誰もが主人公のヨージックを愛おしく思わずにはいられない、ノルシュテインの傑作アニメ。
「森羅万象」という言葉はどこかの首相が語って安っぽくなってしまったけれども、この作品には森羅万象が息づいている。
 ハリネズミのヨージックはコグマのところに、いっしょに夜空の星を数えに行く。こぐまに持って行くおみやげは、「キイチゴの砂糖漬け」。でもこの夜は霧が濃く、森の姿はいつも見ていた森の姿とはちがって見える。そんな霧の中で幻視した白い馬は、「死」の象徴だったのだろうか。
 同じ霧の中だけに、先日観た『フェリーニのアマルコルド』に登場した、霧の中の牛とも比べたくなるような「神秘」。
 ヨージックは大きな木に見とれていて、コグマへのおみやげをどこかに忘れてしまう。フクロウやコウモリ、大きなゾウ(?)、カタツムリらがヨージックを襲おうとしているみたいだし、どこかで「ヨージック!」と呼ぶ声がする。でもイヌが来て、コグマへのおみやげをヨージックにわたしてあげる。
 ヨージックは川に落ち、そのまま川の流れに流されて行く。「それでいい」と思っているが、大きな何ものかが川の中からヨージックを助けてくれる。
 ようやくコグマと巡り会えるヨージック。コグマは何度もヨージックを呼んだのだと言う。コグマとヨージックは並んで夜空を見上げる。

 川に落ちるヨージックは「死」に一歩近づくようでもあり、見ていてもなにか危うい。おそらくヨージックは「死の淵」を覗き込んだのだろうか。帰還した世界で、やはりコグマはヨージックを心配してくれていた。

 この作品でも水墨画の影響は顕著だし、「水」の実写フィルムとアニメとの合成に目を見張らされるし、おそらくはかなり多くの数の切り絵を使ったであろうアニメもすごい。しかし、やはりこの作品ですばらしいのは、その、ハリネズミのヨージックのまわりで息づく「世界」の描写だろう。