ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『マッチポイント』(2005) ウディ・アレン:脚本・監督

マッチポイント [DVD]

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  • 発売日: 2009/06/19
  • メディア: DVD

 ウディ・アレンの映画って、たまに面白いものもあるけれどもたいていは好きになれない。特に、ウディ・アレン自身が出ている作品はもうぜったいに観たくない。
 そういう意味で、この作品にはウディ・アレンは出ていないから「ひょっとしたら?」という期待感はあったのだけれども、やっぱりダメだった。
 ただ「人生、運次第だよ!」というのがテーマだとしたら、「ま、そういうこともあるかもね」と、わたしには興味ない。その「運の分かれ目」を見せる「逆転劇」こそを描きたかったのよ、というならそれはそれで面白かったとも言えるけれども、とにかく登場する人物がたいていは薄っぺらなカリカチュアみたいな存在でしかなく、とてもじゃないけれども「ドラマ」を成立させない。

 アイルランドの貧しい階層の出身だったクリス(ジョナサン・リース=マイヤーズ)が、プロのテニス選手に見切りをつけ、ロンドンでテニスのコーチをやるようになるわけで、そこでテニスを教えた上流階級の青年トムと親しくなり、彼の父の経営する会社のポストを得る。トムの妹のクロエ(エミリー・モーティマー)とも親しくなるのだが、出会ったトムの婚約者のノラ(スカーレット・ヨハンソン)に一目惚れしてのめり込んでいくわけ。まあ「躓きの石」ストーリーである。

 さいしょのうち、クリスは口を歪めて鼻先で「フッ!」って嘲笑するような、あまり育ちが良くないねと感じさせるクセがあったり、招待されたオペラ公演のボックス席にノーネクタイで来てみたりと、たしかに洗練されてないところをみせるのだけれども、こういうところはのちに「改善」されるみたい。
 しかし、このトムの「裕福な」家族がペラッペラで、まるで存在感がない。ひょろひょろしたトムには「自我」というものがないみたいで、ただ両親の気に入った女性との結婚を望んでいるだけみたいだし、父親は何にでも「うん、いいよいいよ」とうなずいているだけ。まあ母親は「ウチは上流階級だから」という誇りは持っているようだけれどもそれだけだし、クロエはけっきょくクリスと結婚するけれども、ただ子どもが欲しいだけで、朝これから出勤するというクリスに、「今なら妊娠できそう」と要求したりする。まあクリスはしっかり「種馬」扱いなのである。
 映画はそんなクリスの内面をまるで描かないから、「上流階級でやって行くにはこういうことも我慢しなくてはいけない」と思っているのか、まるで不満もなく、ただ魅惑的なノラにヘロヘロとのぼせているだけなのか、わからない(まあクロエと離婚してノラといっしょになるという甲斐性は持ち合わせていないようだが)。
 映画の中でいちおう自分の欲望に忠実に生きようとしているのはノラだけなんだろうか。それでも登場してきたときには「あたしがあなたのファム・ファタールよ」みたいな感じだったけど、最後の方ではアイダホ育ち丸出しの「ビッチ」になってしまうのね。実はそれだけ「安っぽい女」だったのか、みたいなところだけれども、まあ彼女ももう少し冷静に考えれば「クリスといっしょになれるわけない」と気づいたり、「クリスはまるで甲斐性なしだ」とわかったりするだろうけれども、しょうがないですね。
 ‥‥って、だからこんな映画、面白いですか?というところではありました。