ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『暗殺のオペラ』(1970) ホルヘ・ルイス・ボルヘス:原作 ベルナルド・ベルトリッチ:監督

暗殺のオペラ 2K修復版 [DVD]

暗殺のオペラ 2K修復版 [DVD]

  • 発売日: 2018/10/26
  • メディア: DVD

 どうもベルトリッチ監督というのはよくわからないところがあって、『ラストタンゴ・イン・パリ』とか観る気しないし、食指の伸びない作品が多くて全作品とかとても観ていないのだけれども、『シェルタリング・スカイ』は、疑問もあるけれども好きな映画だ。実はこの『暗殺のオペラ』とか『暗殺の森』とかの評価の高い作品を、情けないことに今の今まで観ていなかった。この『暗殺のオペラ』の原作はボルヘスの『伝奇集』収録の『裏切り者と英雄のテーマ』で、この原作のことはだいたい記憶していた。
 原作はごく短いもので、この映画を観たあとにパラッと読んでみたのだが、原作の舞台は19世紀のアイルランドであり、主人公はキルパトリックという革命運動の英雄であった。その英雄の運動の仲間であった年長のノーランという、シェイクスピアの研究家でもある人物の残した記録から、百年後にライアンというキルパトリックのひ孫がキルパトリックの伝記を書こうとして彼の死(劇場で暗殺された)を調べ、その「真実」にたどり着くのだが、その真実は伏せて「英雄の栄光に捧げた本」を刊行するというもの。

 映画は舞台をイタリアに移し、アスト・マニャーニという反ファシズム運動のリーダーが1936年に劇場で暗殺される。おそらく映画の撮られた時制になって、そのアスト・マニャーニの息子が父の死んだ町の女性から呼び寄せられる。彼女は父アスト・マニャーニの愛人だったのだが、いまだ真相のわからぬアスト・マニャーニ暗殺を調査し、犯人を見つけてほしいというのだ。マニャーニの息子(実はその名前は父と同じアスト・マニャーニというのだが)は、当時の父の仲間だった4人の男に会うのだが‥‥

 舞台も時制も異なるが、暗殺の真相はボルヘスの原作と同じである。ただ、そのラストにいかにも映画的な趣向がこらされ、この作品を奥深いものにしている(このことに感銘を受け、書きたいこともあるのだけれども、この作品の秘密を全部バラしてしまうようなので書かない)。
 その父マニャーニの恋人だったという女性を、先日『かくも長き不在』で印象的な演技をみたばかりのアリダ・ヴァリが演じていて、ここでもすばらしい演技を見せてくれる。マニャーニを演じたのはジュリオ・ブロージという俳優で、『シテール島への船出』にも出演している人らしい。

 何といってもこの作品で印象に残るのはドリー撮影を多用したその撮影なのだが、撮影監督はあのヴィットリオ・ストラーロと、フランコ・ディ・ジャコモという人が担当している。
 特に夜の撮影が美しく、おそらくは照明は最小限にした「地明かり」のみで撮影していると思えるのだけれども、ホテルの食堂の暗闇の中のライトの美しさ、外景でもやはり建物の照明が美しく映える。シンメトリーを多用した昼の光景もまた、この物語の構造を暗示しているかのごとくに見える。おそらくはいろいろな細部に物語を読み解く鍵も隠されているのではないかと思い、また何度でも観てみたいと思わされる映画だった。DVDを買おうかしらん。
 オペラ劇場が舞台ということもあって、多くオペラ歌曲がの使われるのだけれども、わたしはそのあたりの知識が乏しいので書けることがないのが悲しい。