ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『世にも怪奇な物語』(1968) エドガー・アラン・ポー:原作 ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ:監督

世にも怪奇な物語 (字幕版)

世にも怪奇な物語 (字幕版)

  • メディア: Prime Video

 エドガー・アラン・ポーの作品を、3人の映画監督がそれぞれ映像化したオムニバス映画だけれども、その3本をつづけて観て、そこまでにエドガー・ポーの作品世界を映像化しようとしたものとも思えない。まあ、「ポーの原作で3人の監督にやってもらったら面白いんじゃないの?」みたいなノリで、特に通底するテーマとか視点も設けず、映画としてもラストのクレジットのバックにポーの肖像写真を映すぐらいのものだった。
 だいたい「なぜこの3人の監督で?」というのも疑問で、まあちょっとシリアスな、アート寄りの映画を撮る監督を選びました、というところなんだろう。ただおかしいのは、この3本の作品はブリジット・バルドーでつながっているというか、さいしょの監督のロジェ・ヴァディムはさすがにプレイボーイなわけで、2本目に出演しているバルドーと付き合っていたというし、3本目の主演のテレンス・スタンプもどうやらバルドーと交際していた時期があるらしい。って、この時代、ヨーロッパの男優はみ~んなバルドーと関係があったのかもしれないが。

 1本目は「黒馬の哭く館」という邦題がつけられているが、これは「メッツェンガーシュタイン」という作品の映像化。監督はロジェ・ヴァディムで、主演はそのときヴァディムの奥さんだったジェーン・フォンダで、ここで共演しているのが兄のピーター・フォンダであることが公開当時に話題になったものだった。
 作品としてはどこかの古城でじっさいにロケ撮影したらしいのだが、まあ半分ぐらいはみんなでパーティーでもやっているところを意味もなく撮りつづけた映像の連続で、残りの部分をストーリーをつなぐためにドラマを演出している。原作も馬がフィーチャーされる作品で、後半に出て来る黒馬はさすがにカッコいいのだけれども、全体に気分的な作品という印象。

 2本目が「影を殺した男」で、これはポーの作品では有名な「ウィリアム・ウィルソン」の映画化で、監督はルイ・マル。嘘つきでサディストの男をアラン・ドロンが好演している。彼とカードの勝負をするのがブリジット・バルドーだったが、「いかさま」だったとわかった時点でもっと怒れよ!とか思ってしまう。どうもわたしはルイ・マルの作品というものは、いつもイマイチと思ってしまう。

 最後の作品が「悪魔の首飾り」で、フェリーニの監督でテレンス・スタンプの主演。ポーの作品からモチーフだけを借り、まったく自由な作品となっているだけれども、フェリーニらしさをたっぷり残しながらも恐怖を味わせてくれるユニークなホラー作品として、アル中の映画スターを演じるテレンス・スタンプの気迫たっぷりの演技と合わせて人気の高い作品だと思う。わたしだって、『世にも怪奇な物語』といえば、この「トビー・ダミット」(主役の名前であり、この作品のタイトルでもある)を思い浮かべるだろう。
 そもそもがイギリスの(ある中ゆえ)落ち目の俳優が、イタリアで製作される「初のカトリック西部劇」に主演をオファーされて、出演報酬としてフェラーリの新車がもらえるということで承諾するというあたりから人をくっているのだけれども、彼が空港に到着して映画祭にゲスト参加、そしてフェラーリで暴走するまでの流れはスリリングではある。特に映画祭での、ニーノ・ロータの音楽をともなった即興的な演出、テレンス・スタンプの「狂気」は魅力的だ。
 この作品では、悪魔が鞠遊びをする少女の姿でテレンス・スタンプの前にあらわれるのだけれども、これはヴィジュアル的にキューブリックの『シャイニング』を思わせる、いやそれ以上の「恐ろしさ」があり、このあとの『サテリコン』を頂点にバロック的に崩れていくフェリーニの、その演出の冴えを魅せてくれる作品ではないかと思う。