ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ゾンビ ダリオ・アルジェント監修版』(1978) ジョージ・A・ロメロ:脚本・監督

 Wikipediaをみると、この映画『ゾンビ』にはいろいろなヴァージョンが存在するようだけれども、一般にはこの「ダリオ・アルジェント
監修版」がもっとも普及しているらしい。ゴブリンの音楽が全面的にフィーチャーされているそうだ。

 この映画は何度か観ているつもりだけれども、記憶しているのは、ショッピング・モールに立てこもってけっこう楽しくやってるじゃないかとか、けっきょく「真の敵」は同じ人間なのだよな、みたいなところ。
 さいしょにヘリコプターで4人が飛び立ち、ショッピングモールに着くまでのいきさつが描かれて、「ゾンビ」とは何ものよ?ということも説明される。
 さて、ただ今のCOVID-19まん延下の世界からこの映画を観てみると、この「ゾンビ」というのはまさにCOVID-19感染のアナロジーと見えもするわけで、映画全体が「パンデミック状態」を描いたものであり、そこからいかにして逃れ得るかというサヴァイヴァル映画なのだった。
 この病原体はヒトの形をして人を襲うのだけれども、つまりはいちど死んだ人間が「ゾンビ」として人を襲う。ただ、「ゾンビ」には思考力は持ち合わせないようだし、その動きものろい。人間の肉を求めて、ゾンビ的な本能で行動するだけなのだ。そのあたり(知性、行動力のなさ)が吸血鬼とは異なるというか、共通するのは吸血鬼に襲われた人はまた吸血鬼になるように、ゾンビに襲われて噛みつかれるなどして死んだ人間は「ゾンビ」としてよみがえるというあたり。だから昨日まで友人として談笑していた人物が、今日はゾンビとなって自分を襲うこともある。そこにひとつ、「悲劇」がある。

 しかし、この映画では、ヘリコプターで4人が脱出するまでこそ「数の威力」で「恐ろしや」とは思わせられるものの、ショッピングモールに到着してからはゾンビもほとんど敵ではなく、モール内の探索、ゾンビのモールからの排除こそはテーマになるが、そこまでのスリル感もないかと(いや、やはり観ていると登場人物がゾンビに囲まれると恐ろしいのだが)。しかしそこでゾンビをなめてしまった登場人物の一人が油断してしまい、ゾンビから傷を負ってゾンビ化するのである。
 どうやら残った3人はそのままモールで2ヶ月ぐらいは平穏に暮らしたようなのだが、そこにまあ暴走族グループのようなヤツらがやって来て、人間対人間の争い、そこにゾンビがうろちょろと挟み込まれるという展開になる。
 ここでも3人のうち1人がゾンビ化し、残された仲間に射殺される。残る2人はヘリコプターで脱出できるのだが、たとえゾンビになってしまった後でとはいえ、2人の仲間を始末した男は「残る」といい、いちどは自殺しようとする。しかしさいごに思いとどまり、2人はヘリで飛び立ってジ・エンド。
 だが、この2人の未来が決して明るいものではないことは容易に想像がつくだろう。

 ひとつ今回わかったのは、登場人物がこのゾンビについて、「地獄が満員になると死者は地上を歩くようになる」と言っていることで、それは黒沢清監督の『回路』の中で登場人物が「地獄が満員になったらこの世界に死者があふれてくる」みたいなことを語ったことに呼応しているというか、「そうか、『回路』にもゾンビ映画の影響があったのか」と知ることとなった。