ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『赤い天使』(1966) 増村保造:監督 若尾文子:主演

赤い天使 [DVD]

赤い天使 [DVD]

  • 発売日: 2004/11/26
  • メディア: DVD

 増村保造監督、若尾文子主演というコンビの作品は20本とかあるらしい。『清作の妻』とか『妻は告白する』とかの傑作は観たこともあるし、増村監督の硬質な演出、若尾文子の魅力に持って行かれたものだった。
 それでこの『赤い天使』という作品のこと、不勉強でまるで知らなかった。実はわたし、このDVDはどこかのホームセンターか何かの店頭で売られていた「レンタル落ち」で買ったわけだけれども、今日まで観ることもなかった。どうも、DVDケースの裏側に「明日知れぬ体ゆえに、白衣の下の女が燃える!」と書かれているのに、おそれをなしていたのかもしれない。
 だいたい、たいていの「名作」と評価される映画作品は、Wikipedia上にそのタイトルで記事があるものなのだが、この『赤い天使』は日本語Wikiに記事はなく、英語版Wikiにプロットが書かれているにすぎない。どうやら国内よりも海外での評価の高い作品なのだろう。じっさい、特にフランスでの人気が高いそうで、若尾文子がフランスへ行ったときも「赤い天使、赤い天使!」と言われたらしいのだが。

 これは、日中戦争従軍看護婦として赴任した西さくら(若尾文子)が主人公の、なかなかに強烈なストーリーである。「反戦映画」とか、そういうのではない。「戦争の非人間さ」を暴くというか、その「非人間さ」の世界の中に「生(=性)」を見出して生きようとする女性のストーリー。まあそこから逆照射して「反戦」とはいえるだろうか。とにかくは日本軍が勝利するような映画ではない。

 天津の陸軍病院でさくらは、彼女の人生に大きな意味を与える3人の男性に出会う。病院には前線に戻るのを忌避して仮病をつかうものも多いのだが、そんな一人、坂本に、さくらは夜の巡回のときに襲われてレイプされる。
 「やはり従軍看護婦は性の対象として見られているのか」という感じで、そういう映画なのだが、さくらは翌朝毅然として昨夜起きたことを婦長に伝える。さくらは決して被害者ヅラしてメソメソはしない。その告発で坂本は病院から出されて最前線に送られ、瀕死の重傷を負ってさくらのもとに運ばれ、さくらの前でこと切れる。このことで、さくらは「坂本を死に追いやったのは自分だ」と思うことになる。
 次に、戦傷で両腕を失った折原との出会いがある。折原は帰国も出来ず、病棟でほとんど飼い殺しのようにされている。さくらは折原の話に同情し、折原の頼みを聞いて手を使って彼の性欲処理を手伝ってやる。まあそれ以上のこともやってあげるのだが、これまた翌日に折原はさくらへの(口で書いた)感謝の遺書を残し、病院屋上から飛び降りて自死してしまう。

 そして、軍医の岡部という男がいる。現場での治療、手術に非情冷徹な面を見せる男であるが、実は現実に耐え切れずにモルヒネに頼っている。さくらはだんだんに岡部に惹かれていくのを感じる。
 岡部とさくら、その他2人の軍医、看護要員は最前線の集落へ送られるのだが、そこでは慰安婦からコレラが発生し、だんだんに兵士へと拡がって行くのであった。
 ある夜、さくらはモルヒネ中毒で苦しむ岡部を押さえつけ、そんな発作のおさまった岡部と結ばれる。しかし、中国軍の総攻撃は間近に迫っているのだった。

 ‥‥という映画なのだが、ひとつには野戦病院の凄惨な描写が相当なものである。麻酔なしに手足を切断し、切断した手足はバケツの中に無造作に放り込まれる。阿鼻叫喚に包まれた病院はリアルで、DVD特典として含まれている若尾文子の語りにも、この凄惨さゆえに彼女は撮影後にこの映画をしっかりとは観ていないという。
 そして、そんな凄惨な環境の中だからこそ熱くなる欲望というか。戦場での性欲のもんだいを正面から取り上げた作品として、これから以後このような映画作品が製作されるとは思えず、やはり非常に貴重な作品ではあるだろう。