ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ミスター・フリーダム』(1968) ウィリアム・クライン:脚本・監督

ミスター・フリーダム [DVD]

ミスター・フリーダム [DVD]

 ウィリアム・クラインアメリカ生まれのアメリカ人だけれども、一兵卒としてヨーロッパに駐留し、除隊後そのままフランスにとどまってソルボンヌで学び、さらにフェルナン・レジェに師事して絵を学んだりした人。そのあとはファッション写真家として名を知られることになるけれども、アメリカン・カルチャーが世界を席巻するさまを批判しつづけた人であり、そんな「ファッション写真家」という視点から、傑作『ポリー・マグーお前は誰だ?』が生み出される(わたしは何度も観た映画だけれども、ただ今DVDを注文中)。
 『ポリー・マグーお前は誰だ?』を撮ったあと、クリス・マルケルらフランス映画人らが集結して製作した『ベトナムから遠く離れて』に加担するけれども、そこで「アメリカ批判」の火がついたのか、フランスの五月革命以降の情況から、この『ミスター・フリーダム』を撮ってしまう。

 ‥‥この作品は、アメリカの「反共政策」をコケにしたスラップスティック・コメディで、ほぼ「モンティ・パイソン」の先駆といえるようなチープでばかばかしい映像がつづき、むかし観たときも「え?『ポリー・マグー』のあとが、このしょーもない作品かよ?」とあきれたのだけれども、とにかく、この「しょーもなさ」は中毒性が高い。
 もちろん、この作品は「スーパーマン」などに範を得た、アメリカン・スーパーヒーローもののパロディだけれども、いまだにハリウッド映画はマーヴェル映画のように「スーパーヒーロー」を描きつづける現在、この『ミスター・フリーダム』の強烈なアイロニーは生命力を得ているだろうし、今になって観直してみると、このチープさこそ、そんなスーパーヒーロー映画のパロディとしていつまでも有効なのだと思う。

 しかも、この作品に参加しているスタッフや俳優陣らの豪華さには、ほとんどあきれるしかない。撮影はその後のヨーロッパ映画でいくつもの名作、傑作にかかわることになるピエール・ロム、助監督にはジャック・ドゥミの『ロシュフォールの恋人たち』に関わったアラン・フランシェ。そして音楽を担当し、自らも出演しているのがセルジュ・ゲンスブールであるのだ。
 俳優陣も強烈で、まあ主役のミスター・フリーダムを演じるジョン・アビーという俳優のことは知らなかったけれども、彼をサポートするフランスの女スパイをあのデルフィーヌ・セイリグが演じていて、しかも彼女の衣装といったら!
 そしてフィリップ・ノワレドナルド・プレザンス、サミ・フレー、ちょこっとイヴ・モンタンまで出てますよ~、という豪華オールスター・キャスト! こういった顔ぶれが、この、ある意味「強烈におバカ」な映画で、どんな演技をしているかを見るのも楽しみです。

 まあ観ていて「このアホらしさはいったい何なんだ!」と思うことしきり、ではあるのだけれども、やはりモンティ・パイソンの面白さを想起させられもするし、ワンシーンワンカットの撮影には「おお!」と思わせられるところもある。撮影でいえば、ミスター・フリーダムがビルの屋上のネオンをバックにして敵を倒すシーンなど、ポップな感覚を映像に定着した名シーンだと思う。
 どうも観終えてみると、どこかジョセフ・ロージー監督の『唇からナイフ』を思い起こさせられるところもあり、それは「コミック」(この『ミスター・フリーダム』にはコミックの原作はないけれども)を映画化するというときの、どこかシュルレアルな感覚が共通しているのではないかとも思った。『唇からナイフ』もときどき観返したい作品だけれども、この『ミスター・フリーダム』もまた、ヒマがあれば観返してみたい作品だ。学ぶこと多し。