ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ハマスホイとデンマーク絵画』@上野・東京都美術館

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 ヴィルヘルム・ハマスホイというデンマークの画家について、まったく知るところはなかったのだけれども、去年の早い時期からこの展覧会のチラシは都美術館に置かれていて、とても興味を持っていた。
 そのチラシの、ハマスホイの室内画を観た感じでは、「これはクノップフの絵画の精神的近親関係にあるのではないのか」と思ったわけである。ハマスホイ、1864~1916。クノップフ、1858~1921。これはまさに「同時代人」だろうし、ハマスホイのデンマーククノップフのベルギーも北の海に面しているということで、風土的にも近いものがあるのではないのか。そういう、ハマスホイという未知の画家のなかに、わたしの愛するクノップフのおもかげを見出したいという、これはある意味「邪道」の鑑賞姿勢ではあるまいか。

 展示は19世紀初頭(1820年代)のデンマーク絵画から始まり、全86点の絵画作品の展示のうち、ハマスホイの作品は37点。正直、印象派以前のデンマークの画家による風景画、人物画はアカデミックなものであまり興味もわかなかったし、印象派の時代の絵もさほど。ただ、ゴーギャンは一時期コペンハーゲンに滞在したことがあったそうで、そのときにゴーギャンに影響を受けたという作家はいたし、なんとアルルに出かけていたときにゴッホと会っていたという、ゴッホと同じモティーフを描いている作家もいた。
 デンマーク最北の地スケーインに集ってアーティストの共同体をつくったという人たちの、生活に根差した絵画作品も興味深い。そんななかから、室内の人々のアンチームな集いを描いたような、ハマスホイの師匠格の作家らの作品があり、「こういうところからハマスホイの絵画が生まれたのか」とは思う。

 それでいよいよハマスホイの作品。ただ室内だけを描いた作品もあり、そんな室内に<決してこちらに顔を向けない>女性(ハマスホイ夫人がモデル)がたたずんでいる作品群があり、そして、まるで人気(ひとけ)のないデンマークの建物を描いた作品。これはまさにクノップフの「死都ブリュージュ」シリーズの変奏曲であり、いよいよハマスホイとクノップフとの親和性を強く感じる。わたしは大好きだ。まさにクノップフの風景画を思い起こされる緑あふれる作品もある。
 当時ハマスホイが作品を出品した展覧会には、「ハマスホイの作品には夏も冬もない。それは憂いを帯びた、はるか昔の、遠い彼方にある、こことは別の世界のものである」との賛辞があったという(この言葉は、会場のキャプションには書かれていたのだけれども、あとで買った図録には掲載されていないと思う。不備だ)。
 ここまでくると、これはもう当然、ハマスホイはベルギーとかの象徴派運動の事を知っていたのではないかと思ってしまうのだが、今図録をパラパラとめくって読んだところによれば、あちらの研究家によって、「ハマスホイは象徴派の影響は受けていなかったのだ」ということになっているらしい。

 まあそういうところで、ハマスホイは「北欧のフェルメール」などといわれることになるらしいが(これはヨーロッパでも?それとも日本だけ?)、やはりわたしなどはそうは言われても、これは同じ時代のこと、土地を離れたベルギーとデンマークとで、美しい「共振関係」が起きたのだと、わたしは思いたい。