ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『怒りの葡萄』(1940) ジョン・スタインベック:原作 ジョン・フォード:監督

怒りの葡萄 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
  • 発売日: 2011/02/14
  • メディア: DVD

 少し気分的に余裕も出てきたし、事故に遭う前に観たこの作品のことを書いておかないと、先に進まない。
 ジョン・スタインベックによる原作はこの映画の前年の1939年に発表されていて、今の日本でも文庫本で容易に入手できる名作。それを、おそらくは原作発表直後から映画化へ向けての動きが始まったのだろう。ジョン・フォードにとっても、「西部劇」ではない、そんなに過去のアメリカの姿ではない「現代劇」としての作品だろう。ここには、前に観た『タバコ・ロード』のような、アメリカの貧困階級の姿が描かれ、こういう作品を観ると「社会派」ということばを思い浮かべてしまう。

 物語は「新天地」を求めてオクラホマからカリフォルニアへと、おんぼろトラックで向かうジョード一家一族の道中の話。こういうオクラホマから西へ向かう人たちのことを「Okie」という蔑称で呼ぶことは、アメリカのポピュラー音楽を通じて知っていたし、そういう人たちが西へと向かう道は、「Route 66」。この道の名もNat King Coleの歌う曲名としてわたしの記憶にある。ある意味、現在のアメリカの礎(いしづえ)となった人々の話であるが、それは苦難の旅ではあった。
 映画の主人公は、ジョード一家の5人きょうだいの長男のトム(ヘンリー・フォンダ)だが、彼は人を殺めて刑に服していたのだが、仮出所で家に戻ってくる。しかしそこに一家の姿はなく、なけなしの金をはたいてトラックを買い、一族十人以上でトラックに乗り込み、仕事と希望があるというカリフォルニアに向かうところだった。何とか間に合ってトムも、途中で巡り合った説教師のケイシー(ジョン・キャラダイン)と共に同行することになるが、過酷な旅の途中で祖父も祖母も亡くなってしまう。
 よくやくカリフォルニアについてみれば、「労働者過多」として、とんでもない低賃金の仕事しかないわけだ。対抗して集まった労働者を組織しようとしたケイシーは殴り殺されてしまう。その場でトムは、ケイシーを殺した男を殺すのだ。

 かなりの長編の原作をどこまで、どの範囲で映画化したのかはわからないけれども、脚本(ナナリー・ジョンソンという人による)は、みごとだと思う。旅をする一家の中心を母親(ジェーン・ダーウェル)に置き、労苦を越えて一家を生き延べさせようとする意志は感動的だし、このジェーン・ダーウェルという女優さんがすばらしい。
 そして何よりもやはり「撮影」で、この作品もやはりグレッグ・トーランドが担当しているのだが、その光の効果で、奥行きのある「たての構図」に人物を配置し、手前の人物は暗いシルエット的に沈み、これが奥に行くほどに明るくなるという採光で、すばらしい空間を現前させていた。特にケイシー殺害の場面の光の効果は、今なお色あせない強烈さがあるだろう。

 馬こそは出てこなかったが、そのかわりにトラックなのか?という作品だが、やはりジョン・フォードらしくも、皆でのダンス・シーンはちゃんと出てくるのだった。
 これはやはり、心に残すべき作品だろうとは思った。