ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ならず者』(1943) ハワード・ヒューズ、ハワード・ホークス:監督

ならず者 [DVD]

ならず者 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
  • 発売日: 2011/02/22
  • メディア: DVD

 当初、ハワード・ホークス監督作品として製作始められたのだが、なぜか製作のハワード・ヒューズがしゃしゃり出て「監督」までやってしまったという作品。どうもハワード・ヒューズは、この作品のためにオーディションで選んだジェーン・ラッセルに入れ込んでしまい、彼女をスターにするために必要以上に尽力した結果らしい。このあたりはスコセッシの映画『アビエイター』でちらっと描かれているらしいのだが。

 骨組みはしっかりした映画である。脚本にベン・ヘクトも加わっているし、撮影はおととい観た『真珠湾攻撃』にもかかわっていたグレッグ・トーランド。『真珠湾攻撃』と同様に、ウォルター・ヒューストンが出演しているし、音楽はヴィクター・ヤングである。

 ストーリーはあのビリー・ザ・キッドをメインに、彼の伝説には欠かせないパット・ギャレットを絡め、さらにドク・ホリディとジェーン・ラッセル演じるリオという女性、さらに「レッド」というキッドの愛馬も重要な役を占め、3人の男と1人の女、そして1匹の馬との愛憎関係というか奪い合い、4角関係というか馬を加えて5角関係の物語なのか?

 前半はけっこう面白いのです。キッドがリオと知り合い、重傷を負ってリオの看病を受けるあたりまで。ストーリーラインはしっかりしているし、やはり何といってもグレッグ・トーランドのカメラがすばらしい。
 やはりしっかりとした脚本、そして腕の立つカメラマンとがいれば、それなりに「映画」なんて成立してしまうのではないのか、とも思わせられてしまう。
 ところが後半になると、「はたしてこの映画の主題は何なんだろう?」というような迷走を始める。「そこは軽く流せばいいんじゃないの?」というようなシーンにも異様に力を注ぐ演出で、これは全体にフラットな印象になってしまう。
 そもそも、ドク・ホリディとビリー・ザ・キッドとのかなりきわどい同性愛的関係に、「コイツ、ドクに惚れてるのか?」というようなパット・ギャレットが出てきて、さらにドクとキッドはリオのみならず、馬のレッドも奪い合うという複雑な関係で、そんな錯乱する関係すべてを均質に描こうとするから、これでは何かややっこしい前衛演劇である。
 脚本に何もかも放り込みすぎている感じもあるし、そのことを統括しなければならない「監督」が、どの場面にも均質に一様に力を入れ、「いったいどこがクライマックスだったんだろう?」みたいな映画になってしまった。

 映画にはたしかにまずは「脚本」は大事だし、そのあとは「美術」「照明」などを含めて「撮影」というものが重要なファクターにはなる。そしてそのおしまいに、「編集」を経て一本の「映画」が完成する。でも、その各々のシーンで、肝心かなめの俳優たちに「おまえ、こう動け」とか、「このシーンで描きたいのはコレだ!」とかいうのがどこかずれてしまったとしたら、もう修復は不可能になる。
 「監督」の役割とは何なのか、ということをわかりやすく示してくれたということで、なかなかに興味深い映画ではあったと思う。「映画」というものは、協同作業でひとつの作品をつくりあげていく。いったいそれはどういうことなのか、ということをこそ、この作品は観る人に教えてくれるようなところがあるのではないだろうか。

 なお、ここでビリー・ザ・キッドを演じたのはジャック・ビューテルという俳優で、この作品がデビュー作だったようだけれども、すっごいハンサムで、演技がダメということでもないと思った。しかしこの映画から何年か経って、ハワード・ホークスが『赤い河』に彼を起用としたらしいけれども、その役はけっきょくモンゴメリー・クリフトが演じることになり、つまりジャック・ビューテルは俳優として大成することはなかったのだった。映画界はこういう話にあふれているようだ。