- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2013/04/18
- メディア: DVD
「Tobacco Road」というタイトルを聞くと、わたしなどはどうしてもイギリスのバンド、Nashville Teensが1964年に放ったヒット曲を思い出してしまう。別にこの映画からインスパイアされて書かれた曲ではないようだけれども、原曲はフォーク・ブルースらしく、地域としての同じ「タバコ・ロード」のことを歌っているのだろう(「おふくろは死んじゃって、おやじは飲んだくれだ」みたいな歌詞がある)。
ちょっと映画のことから離れてこの曲のことを書いてみたいのだけれども、奏っているNashville Teens、アメリカでヒットしたのはこの曲だけだったけれども、イギリスでは小ヒットがいくつかあるようで、どうやらいまだにバンド活動は続いているようだ。
曲はめっちゃくちゃカッコよくって、発表されたのが(まだ世の中は「ポップ」よ、という)1964年だというのにもうすっかり「ロック」しちゃってる。まあプロデュース(Mickie Mostだったらしい)とかエンジニアリング、編曲の勝利というか、「なんでこの曲一曲で終わっちゃったんだろう?」ともったいなく思う。しかしさすがにこの曲のパワーは多くのミュージシャンを惹き付け、Jefferson Airplaneをはじめ、Eric Burdonその他、実に多くのミュージシャンがこの曲をカヴァーしている。時代を先駆けた一曲だった、といってもいいのだろう。
ということでこの映画の話になるけれども、アースキン・コールドウェルの原作小説がまずは売れに売れ(これは日本でも今も文庫本が出ている)、これを原作としたジャック・カークランドによる戯曲の舞台は大ヒット、ロングランだったという。その戯曲をもとにしてジョン・フォードが映画化したのだということ。
ところがこの映画、まったく日本で公開されず、ようやく公開されたのは1988年なのだという。どうもこれは当時のGHQが、「この映画はアメリカの貧困白人層(プア・ホワイト)を描いているから、日本人には見せないね~」とやったらしい。さて、そんな悲惨な貧困層を描いた映画なのか?
なるほど、もうほとんど廃墟になった建物の前にかつては栄華を極めたらしい一族の末梢らがゴロゴロしている。悲惨そうだ。
ところがそこにとんでもないポンコツ車が乗り込んできて、「これから焚き木を売りに行くぞー!」みたいにやっている。突然にナンセンス・コメディーモードというか、その後の展開も常識外れもはなはだしい。「リアリズム」などというものはどこにも見つからないではないのか。
わたしはこの冒頭の展開を観ていて、わたしがガキの頃にテレビでやっていた『じゃじゃ馬億万長者』というアメリカのコメディ番組を思い出してしまった。『じゃじゃ馬億万長者』というのは、テキサスかどこかの知性も教養もない一族がとつぜんに油田を掘り当ててしまい、大金持ちになってしまうのだが、しょせんバカはバカという騒動を毎週巻き起こすという番組だったのだが、この『タバコ・ロード』、知性も教養もないが大金持ちにもなれない一族の、あまりにバカなお話なのだ。まあ800ドルで高級新車を買ってすぐにボロボロにしてしまうとか、一族でホテルに泊まってやるぜ!みたいなところもあるのだけれども。
そういうので、あとは『モンティパイソン』みたいなあんまりなナンセンス喜劇も思い浮かべるわけで、これはたいへんな映画だ。
ただ、主人公老夫婦が「もう金もないから<救貧農場>へ入所するしかない」と、二人で丘を越えて歩いていくシーンは美しく、一篇の映画作品としてみごとな「オチ」というのか、「ただバカ騒ぎの映画じゃないんだぞ」というのがさすがにジョン・フォード、なのだろう。これ、けっこう繰り返して観たくなる魅力があるのでした。