ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『悟浄出世』中島敦:著

 悟浄とは、西遊記に登場する「沙悟浄」のことである。中島敦はその短すぎる生涯を終える前に、『わが西遊記』という作品を書こうと計画していたらしく、この『悟浄出世』もその一部として書かれたものらしい。

 そもそも沙悟浄とは流沙河の河底に棲んでいた「妖怪」で、通りかかる九人の僧侶を襲って食し、その「罰」の意識に苛まれている。自己否定の意識から「魂とは何か」と疑問を抱き、さまざまな偉人賢人と呼ばれる(それは時に「妖怪」でもあるのだが)連中を尋ね歩く。そういう「魂」の遍歴の記録であるが、これはそのまま、作者の中島敦の「わたしとは何か」という問いの発露でもあろう。中島敦の「ナマ」の声を聞く思いもする作品だと思った。