ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『山月記』中島敦:著

 中島敦の作品中、もっとも著名な作品だろう。教科書に取り上げられることが多いらしく、わたしも高校の現国でこの作品を読んだ(まあその後「中島敦」を再発見するまで何十年もかかってしまったが)。

 かつて「郷党の鬼才」とうたわれ、詩人として名を成すつもりであった李徴は、なぜか「人喰い虎」へと変身してしまう。まだいくばくかの「人の心」の残る李徴は、通りかかった旧友を襲おうとしたときにそれが旧友であることに思いあたり、彼に自分の身の上を語るのである。
 李徴は、自分が「虎」に身を落としたのには思い当たる理由があるという。それを彼は「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」ゆえだと語る。これは、普通に言えば「尊大な自尊心」、「臆病な羞恥心」という言い方になるだろう。これが「逆」になっているところに、この作品の「ミソ」があるだろうか。そしてやはり、「人喰い虎」でありながら「詩人」であるという、冬空に似合うような情景の、ひんやりした美観。