ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重:著

オーガ(ニ)ズム

オーガ(ニ)ズム

 ‥‥長かった。860ページ。約一ヶ月をかけてようやく読み終えた。
 内容的にはこれはサスペンス・アクションものといえばいいのか、前に阿部和重で読んだ短篇集『Deluxe Edition』にもこういった趣向の作品がおさめられていた記憶で、そこまでの違和感はなかったけれども、まあかつての『シンセミア』のような重厚な読みごたえというものはなかったかと。

 そもそもが平行世界で神町(『シンセミア』でおなじみの土地)に首都を移転したという日本に、オバマ大統領が訪れる。そこに何者かがテロを仕掛けているというのを阻止するためにCIAのエージェント(ケース・オフィサー)が登場し、作者である阿部和重自身も巻き込まれ、CIAのラリー・タイテルバウムという、阿部和重とほぼ同い年の男といっしょに行動するのである。
 ここに『ピストルズ』からの「菖蒲四姉妹」だかが登場し、その「アヤメメソッド」こそが、ラリーと阿部和重の対峙する「敵」ということになるわけだが。

 ‥‥むむむ、わたしはその『ピストルズ』をちょっとばかし読みあぐねたところもあって、この『オーガ(ニ)ズム』でも、「人心操作術」なるものが相手というのは荒唐無稽すぎるというか、「それ、もう<何でもアリ>の世界になっちゃうじゃん!」みたいな感想はある。
 終盤に意外とたやすく心神操作されていたCIAの男の呪縛が解けるあたりから急速全ピッチで「サスペンス・アクション」路線まっしぐら、みたいな展開になるけれども、まあそのあたりの構成にはいろいろと<無理>があったようには思う。特に一段落つく前の顛末は、それはいくらなんでも無理があるのではないかと思うのだった(というか、このあたりをちゃんと書いて千ページを超える本になっても良かったと思うのだが)。

 けっきょくこの本の救いは、そのラリー・タイテルバウムという男の存在をしっかりと生々しく描き、そこでの阿部和重との交流がかなり魅惑的であることにつきるかと(『パルプ・フィクション』のユマ・サーマン似だというエミリー・ウォーレンもいいが)。

 一段落ついたあとの「日本の近未来」の描写はかなり挑発的で、現実世界で安倍晋三が皇室を利用して「全体主義国家」を仕上げようとしたこの日に、この本を読み終えたというのも因縁めいている。

 阿部和重の文章はいわゆる「純文学」からは逸脱し、この<現実世界>とリンクさせる軽妙洒脱、ポップな文体をとっていて、主には過去から現代への「映画」への出典を示さない言及、同じように「文学」、「音楽」への目くばせに満ちていて、自分自身の<戯画化>を含め、そのあたりが<ニヤリ>とさせられるところではあると思う。