これはスウェーデンとデンマークとの合作映画だけれども、舞台はスウェーデン。このあいだ観たスワーンベリもスウェーデンの人だし、ちょっとスウェーデン週間。
原作者が以前観た『ぼくのエリ 200才の少女』を書いた人だそうで、観終わってみるとたしかに共通項は感じられる。今の映画は「ホラー」とか「ミステリー」とかいう宣伝の仕方になるのだけれども、この映画は「怪奇幻想譚」という空気感で、それはヒロインの住まいが人里離れた感じのする森の中というところから来るのか。これはいかにも北欧らしい空気をたたえた新しい「人狼伝説」ともいえる。
そのヒロインの住まいを包む森、ヒロインの泳ぐその森の中の池、森に棲むキツネやヘラジカらの生き物が「ここは違う世界だ」という雰囲気を醸し出す。そういった動物たちはほんのわずかしか出てこないのだけれども、その登場のさせ方はとってもうまい演出だと思った。
『ぼくのエリ』でも、少女が「ロマ」であったりと、マイノリティへの視点が印象に残ったのだけれども、この作品でもヒロインは容貌的に差別を受ける存在でもある。けっきょく、ヒロインのティーナの前にヴォーレという男が現れ、ティーナの出生の秘密を解き明かすことになる。
「ヒト」として生きるか、ヴォーレの同類として生きるかを迫られる、豊かな感情の持ち主であるティーナの悩みには、観ていて共感いっぱいになる。ラストは「やっぱりそう来たか!」という感じだったけれども。
あと、ティーナの同居人だった、ドッグ・レースに夢中のローランドという男の描写もよかった。彼はティーナを利用していただけではなく、ティーナにじっさいに「好感」以上のものを持っていたのだろうか。彼の存在には、ちょびっと哀愁を感じさせられた。これは「いい映画」だったな、と思う。
「残酷」というのではなく、観ていて「うわ~!」というようなグロテスクなシーンもあるのだが、そんなシーンを観ながら、わたしは「こういう映画って昔観たことある」と思って考えたのだけれども、それはデヴィッド・クローネンバーグの映画群だった。クローネンバーグのそういった作品を、また観たくなったのだった。