ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『メランコリック』田中征爾:脚本・監督・編集

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 ‥‥冒頭は、「いわゆるクライム・サスペンスが始まるのか?」という雰囲気なのだが、まあ撮影とか照明とかはよろしくはない。「どうなのか?」と観ていると、つまり営業を終えた町の銭湯が、「殺し」を請け負った殺し屋の「作業場」であり、作業が終わればちゃっちゃっと掃除をし(タイル張りだから簡単だろう)、死体は風呂釜で焼却してしまえばいいのだ。‥‥こ、こ、これはすごい! いやじっさいに日本の風呂屋のどこかでこんなことが行われているのではないのかと思わされてしまう。後片付け簡単、死体はすべて灰になってしまう。それで風呂の湯が沸き、エコロジーである。

 っつうか、その風呂屋で、東大を出ていながら就職もせずバイト生活を続ける主人公が働くことになる。当然彼はその風呂屋で営業終了後にやられている「作業」のことは知らないのだけれども、ついに知ってしまう日がくる。そして、彼もまたその「作業」の手伝いをやることになるのだ。

 ‥‥異様な面白さだった。この面白さをどう伝えたらいいのかな? まずは出演者(わたしは誰一人知らなかった)がみんなとってもキュート。そして、銭湯を舞台としてのクリミナル・サスペンスでありながら微笑ましいラブストーリーもあり、それでホーム・コメディーっぽかったりもする。最後は男と男の友情で泣けるというか。
 タランティーノ映画をう~んとハッピーにしたようでもあり、(実はこれを書いているときにちょこっと阿部和重の新作を読んだこともあり)阿部和重テイストもあるというか。
 この田中征爾という監督はこの作品が監督第一作らしく、この作品で去年の東京国際映画祭、日本映画スプラッシュ部門監督賞受賞したらしい。そもそもはこの作品の主演男優の皆川暢二という人物が声を上げ、自らプロデューサーとしてこの作品を立ち上げたらしい。彼の同僚役で印象に残る磯崎義知もまた、単に俳優というにとどまらないキャリアの持ち主で、この監督と主演俳優二人、同世代の三人によってつくられた映画だという。こういうのを「日本映画の新しい波」ともいえるのかもしれない。またもういちど観たくなってしまった。