ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』~使用音楽について(1)

 今回は、映画で使用された音楽についていろいろと書きます。この映画の音楽については思いつくことが山ほどあり、いったいどれだけの長さになってしまうか予想もつきませんが。

 まずはしょっぱな、ディカプリオとブラッド・ピットのドライヴシーン、クレジットの出るバックに流れるのがRoy Headの「Treat Her Right」。この曲はわたしのオールタイム・フェイヴァリット・ナンバーなので、しょっぱなから感激。この曲は1969年の曲ではなく、1965年の秋に大ヒットしたナンバー。Roy Headはテキサス出身で、ずっとのちに日本で彼のCDがリリースされたときは「テキサス・リズム&ブルース」という紹介をされたけど、C&WとR&Bとを掛け合わせた先駆的な存在だったでしょうか。この曲はわたし的には「超名曲」で、当時から大好きだったわけだけれども、日本ではシングルもリリースされずに完全に無視されて終わってしまった。Roy Head自身も、このあとしばらくは中ヒットを続けたけれども、いつしか忘れ去られてしまった(活動は地道に長く続けていたようだが)。しばらく後に読んだ何かのコラムで、「Roy Headは一生懸命踊りまくって歌ったのだが、その人気は長続きしなかった」みたいに書かれていて、「<踊りまくった>ってどういうこと?」と、そのときはわからなかったのだけれども、YouTubeなどで昔の映像が見られるようになって彼のTVでのパフォーマンスを観ることもできるようになったけれども、「なるほど、こりゃすごいや」と思ってしまうわけで、これは「ダンス」というか「アクロバット」というか、「何もそこまでやらなくってもいいじゃないか」とは思ってしまう。トゥーマッチ、というヤツだろうが、ひょっとしたらJames Brownに対抗意識とかがあったのだろうか。
 まあこうやってこの映画の冒頭で使われたことでまた注目されるかどうかはわからないけれども、前にもいちど、アラン・パーカー監督の『ザ・コミットメンツ』の中でカヴァーされたことはあったのだ。きっと、タランティーノアラン・パーカーもこの曲が大好きだったのではないかと思うのだが、今回この映画を観て、「カッコいい曲だな」と思ってくれる人がいるといい。

 あ、曲の内容が、この映画とどう関りがあるのか? この曲は「あんたが女の子にモテようと思ったら、彼女のことを<正当に>もてなしなさい」という、ま、当時としてはリベラルなような(そうでもないか)いっしゅフェミニスト音楽ともいえるような内容でもあり、それはどこかでこの映画の<姿勢>でもあるのかもしれない、などとは思うのだった。

 むむむ、一曲書いただけで長くなってしまった。次に、この映画では<特権的>に三曲もの曲が使われたミュージシャン(グループ)がいる。それはPaul Revere & Raidersで、わたしの認識では「Good Thing」「Hungry」「Mr.Sun Mr.Moon」が聴かれたと思う。いったいなぜこのグループがここまでフィーチャーされたかというと、つまり彼らのマネージャー(ソングライター)が、あのTerry Melcherだったからである。Terry Melcherとは、「シャロン・テート事件」の元凶のような人物というか、この人物がCharles Mansonとの契約を約束して、それをすっぽかしてしまったことからCharles Mansonの恨みを買い、Terry Melcherの元の住居にあとに転居してきたポランスキーシャロン・テート(英語表記とカナ表記がごっちゃになってすまんこってす)とがマンソン・ファミリーの標的にされてしまったわけ。
 この映画では、シャロン・テートがこのグループのアルバムをなぜかいくつも持っていて、それをとっかえひっかえ聴いているという設定になっていて、実際の事件と「虚構」であるところのこの映画とのバランスをとっていた。
 わたしはこのPaul Revere & Raidersも大好きだったわけで、この映画でチラッと写される彼らのアルバム「Spirits of 67」も持っていた。このグループは60年代半ばにアメリカのグループとしてはほとんど唯一、イギリスからの「ブリティッシュ・インベーション」に対抗できるグループとして人気を得た。まあ彼らも「これがアメリカン・サウンドだ!」ということを打ち出したわけではなく、ほとんどそんなイギリスの連中の模倣ではないかというところがあったのだけれども、Paul Revereがアメリカ独立戦争の英雄と同じ名であることからか、当時の軍服に身を包んで演奏するというのがアメリカ人の愛国心に訴えたのかもしれない。そんな彼らのパフォーマンスを見てみよう(この「Kicks」は、映画では使われていないけど)。

 このバンドがいちばん人気があったのは、「Kicks」「Good Thing」「Hungry」などの連続ヒットを飛ばしていた66年から67年ぐらいのことで、その後はメンバーチェンジを繰り返し、レコーディングはスタジオ・ミュージシャンにまかせたり、サウンド的にもそれまでのR&B色を捨て、イージーな子供向けポップスへと変化して(落ちぶれて)いく。
 彼らのいちばんのヒット曲は先に映像を載せた「Kicks」かな?と思うのだが、この曲は「ドラッグやめなよ!」というアンチ・ドラッグ・ソングで、そのあたりでこの映画の内容に微妙に絡んでいただろうか。
 面白いのはこのPaul Revere & Raiders、「ウッドストック・フェスティヴァル」にもオファーされていたらしいのだが、その1969年にはグループの路線はもう「ロックだぜ~」とはいえないものだったろうし、皆がドラッグでキメている中で「Kicks」とか演奏したら、観客らはどんな反応を示しただろうか?などと想像するのも楽しい。

 ‥‥って、ミュージシャン2組のこと書いただけですっごく長くなってしまった。まだTerry Melcherのことで書きたいこともあるし、他の音楽のことも書きたいが終わらない。また日を改めて書き継いでみようかと思う。