ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『特別展示「首くくり栲象」』@六本木・小山登美夫ギャラリー

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作品展示:宮本隆司写真作品、栲象さんの活動資料、羽永光利写真作品
上映作品:
宮本隆司撮影・庭劇場ドキュメンタリー作品『Kubikukuri Takuzou』(2011)
インスタレーション『首くくり栲象 声とことば』映像・構成:余越保子(2010)
余越保子『Hangman Takuzo』(2010)

 宮本隆司さんによる首くくり栲象(たくぞう)さんの写真展は、この春に横浜のBankArtで開催されていたものだけれども、その展示を観た小山登美夫さんが栲象氏の「あり方」に衝撃を受け、また、栲象氏の若い頃の写真を自分が知っていることに気づき、この特別展示を企画したという。

 栲象さんは、国立の自宅庭で「庭劇場」を開催、自らのパフォーマンスを披露されていた(わたしも訪れたことはある)。「首くくり栲象」と言われるように、彼のパフォーマンスは「首吊り」であった。庭の木に特製の(ほんとうに首を吊ってしまわないための)ロープを下げ、そこに首をかけるというパフォーマンス。栲象さんはごく若い頃からこのパフォーマンスを始められ、その晩年、昨年亡くなられるまでは「庭劇場」を継続されていた。亡くなられた後にその国立の家で宮本さんの追悼の写真展も開催されていたから、栲象さん関連の展示はこれで三回目になる。

 栲象さんのパフォーマンスはまさに「畏怖」ということばを想起させられるもので、宮本さんの写真作品も、その「畏怖」をどう定着するか、ということから撮られていた印象がある。
 この宮本さんの写真作品はわたしも何度も観ていたわけだけれども、今回の特別展示では三種類の映像作品が上映され、わたしは今回はこれらの映像を観たいと思っていた。

 余越さんのドキュメンタリー『首くくり栲象 声とことば』は会場の条件で音声が聞き取りにくく、ちょっと受け止めかねたところもあるが、「庭劇場」の公演(?)を一回分そっくり記録した宮本さんのドキュメント、『Kubikukuri Takuzou』と、一部ですでに何度か上映されて伝説になっている余越さんの『Hangman Takuzo』とは、栲象さんの表現、そしてその秘密を解き明かすものとして興味深く観た。

 固定されたカメラからその「庭劇場」でのパフォーマンス全篇を記録した『Kubikukuri Takuzou』は記録としても貴重なもので、栲象さんの「意識の流れ」をも伝えるものではないかと思った。
 そのパフォーマンスの後半、まさに絶妙のタイミングで一匹のネコが現れ、画面を通り過ぎて行ったのだが、「まさか<仕込み>ということもあり得ないだろう」とあとで宮本さんにお聞きしたのだが、もちろん<偶然>の産物で、あのネコは栲象さんが飼われていたネコだったということだ。

 余越さんの『Hangman Takuzo』は、余越さんの拠点がアメリカであることから、まずはアメリカでの上映が企画されたらしいのだが(そのせいか、英語字幕がついている)、アメリカでの「首吊り」への禁忌から上映がなかなかかなわなかったという。
 このことはあとで宮本さんにお聞きしたのだが、そのアメリカでの「首吊り」への禁忌とは、日本で考えるような「自殺」への連想ではなく、Billie Holidayが『Strange Fruit』で歌った、アフリカ系アメリカ人へのリンチが想起されるからだということだった。これは思いもよらない「理由」で、それぞれの文化が抱える「タブー」として、考えることの多いことだった(日本という国は、そういう「タブー」を打ち捨てる「恥知らず」の国ともいえる)。
 この映像の終盤で、いっしょに出演されている黒沢美香さん(彼女と栲象さんとのパートナーシップは強いものがあったが、今はお二人ともこの世界にはいらっしゃらない)が、栲象さんに「首を吊っているときに、<あなた>はどこにいるのか?」と執拗に訊かれていたことが心に残った。