ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『銃殺』(1964) ジョセフ・ロージー:監督

銃殺 [DVD]

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 第一次世界大戦時、前線後部の後衛基地で行われた脱走兵の軍事裁判の一部始終を撮った作品。すべてがその後衛基地内の映像で(雨が降り続けているか、やんだばかりで、地面は泥沼のようなぬかるみ)時系列に沿って描かれ、回想ショットなどとしてわずかに挟み込まれる基地以外の映像は静止画。戦闘シーンは皆無だけれども、多くのシーンでバックに大砲の炸裂音が聞かれる。
 「基地」といってもほぼ戦闘で破壊された廃屋だが、規模は大きくていくつもの部屋に分かれていることが、この作品に拡がりと奥行きを持たせている。撮影は複数の人物の集まるシーンでは部屋の上から下を見下ろすような構図が多く、またカット数の少ない「長回し」、移動撮影が目立つ。
 全体が演劇の舞台の映像化、ということを規範としているようで、そもそもが「演劇人」であったジョセフ・ロージーの面目躍如、というところもあるだろうか。

 脱走兵を演じるのがトム・コートネイで、彼を弁護することになる大尉をダーク・ボガードが演じていて、この二人の「対話」がこの作品の大きなポイントになっている。二人ともほとんど「舞台俳優」というノリでの演技で、演出がその二人の演技を的確に捉えている。
 ダーク・ボガードの大尉はけっこう「冷酷」との評判があり、裁判前に兵士たちは「これは銃殺だな」と話し合ったりしているのだが、トム・コートネイの素朴な人柄に触れ、彼が「大砲の音が我慢できなかった(I can't stand it)」と語り、ただその場から離れたかったという彼の言葉にシンパシーを感じ、「どうしても彼を救いたい」と思うようになる。しかし、トムを担当した軍医は精神医の資質がなく、ただトムを「臆病者」と断じるだけである(観ていると、裁判でこの医師の証言を反駁できなかった大尉に敗因があったか)。そして、判決の直前に隊に「明朝、前線への移動」との命令が届く。

 これはもちろん、戦争の非人間性を告発する「反戦映画」であると同時に、たとえそれが「戦場」での裁判であるとはいえ、「裁判」というものの不合理性を告発する作品でもあると思う。知られているようにジョセフ・ロージーアメリカの「赤狩り」(非米活動委員会)でヨーロッパに亡命した監督であり、この作品の「裁判」の様子には、そんなロージー監督の「赤狩り」の記憶が反映されていることはまちがいないだろうと思う。そういう意味でこの作品、ロージー監督「入魂の一作」ではなかっただろうか(この時期、ジョセフ・ロージーはその創作活動の最頂期といってもよく、様々なジャンルの作品を撮り続けていた)。