ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『山荘綺談』シャーリイ・ジャクスン:著 小倉多加志:訳

 ヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」と並んで、海外の「幽霊屋敷」モノの代表的な作品。

 辺鄙な森の中に打ち捨てられたいわくつきの屋敷で「心霊現象」を研究するため、モンタギュー博士という人物が霊感の強いのではないかと思われる二人の女性、セオドラとエリーナーを招き、屋敷の持ち主の甥であるルークという青年と四人で、しばらく屋敷に宿泊する。食事などの世話は屋敷の管理をするダドリー夫人がやってくれる。
 小説はほとんどがエリーナーの視点から語られ、エリーナーの心理の動きを克明に追って行くことになる。もちろん屋敷には怪奇現象も起きるのだが、そのことと、32才になる今まで孤独な生をおくってきたエリーナーという女性の心理とがリンクしても行く。このあたり、エリーナーが隣室になったセオドラに抱く感情(まさに「愛憎」)の描写が「さすがにシャーリイ・ジャクスン!」というところで、読みごたえがある。ここにルークも加わって、エリーナーの中では勝手にセオドラとの三角関係が形成されたりも。
 屋敷で起きる「怪奇現象」についての考察はまるでなされないのだけれども、屋敷はまちがいなくエリーナーのことを認識していて(彼女の名前を壁に書いたりする)、つまりはエリーナーが屋敷に取り込まれて行く過程を書いた小説として、スティーヴン・キングの『シャイニング』が思い出されることだろう(スティーヴン・キングはこの『山荘綺談』を絶賛していたらしい)。

 終盤に登場するモンタギュー博士の夫人とアーサーという男性はちょっとステレオタイプというか、緊迫した空気に水を差すような気もしないではなかったし、彼女たちを呼んだモンタギュー博士は一連の怪奇現象をどう考えたのか知りたいところもあるが(この事件のあと博士が書いた研究論文は完全に無視されたというが)、やはり『ねじの回転』と双璧をなす傑作ではないかとは思った。

 なお、今ではこの<ハヤカワ文庫>版の『山荘綺談』は絶版で、<創元推理文庫>から『丘の屋敷』のタイトル(渡辺庸子訳)で刊行されている。