ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『雪の練習生』多和田葉子:著

雪の練習生 (新潮文庫)

雪の練習生 (新潮文庫)

 多和田葉子を読むのは3冊目(新書の『言葉と歩く日記』をカウントすれば4冊目)。やはりここでも「言葉」の問題というか「バイリンガル」の問題が一面のテーマになっている。主人公はサーカス、そして動物園にいるシロクマ3代、それぞれの物語。その背景に東ヨーロッパの政治情勢があるのだけれども、なぜか東側崩壊前の時代は人とシロクマとの意思疎通があったのに、さいごのクヌートの話「北極を想う日」ではクヌートは人の言葉を解するけれども、会話はできない(ただ、某スーパースターを思わせる「ミヒャエル」とだけは会話ができる)。
 そういう意味で、「自伝」、「伝記」にこだわる最初の二つ、「祖母の退化論」、「死の接吻」が面白く、正直さいごの「北極を想う日」はどう読んだらいいのかわからないところもあった。けっきょくこの3代のシロクマたちは、自分の本来の生まれ故郷の「北極」を知ることはなかったのだ。

 「祖母の退化論」から引き継いで、サーカスの芸人であるウルズラがパートナーのトスカの伝記を書こうとし、同時に自分の「自伝」を書くという構成の「死の接吻」こそがあまりに刺激的で、ちょっとしびれた。