ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

新潮選書『報道の脳死』烏賀陽弘道:著

報道の脳死(新潮新書)

報道の脳死(新潮新書)

 現在の安倍政権のファシズムを思わせる暴走ぶりに対して、報道機関がほぼ無力であることはさかんにいわれていることだとは思う。特に最近のNHKの報道ぶりは、まるで政権の広報担当であるかのような「偏向」ぶりだと言われるし、わたしもNHKのニュース報道を見ているとそのことを強く感じ、<怒り>すらおぼえることが日ごとに多くなっている。いったいなぜ、このような事態になってしまったのか。
 そのことを「報道の脳死状態」として、3.11(東日本大震災原発事故)の新聞報道から見ていくのがこの本。著者の烏賀陽氏は朝日新聞の記者からジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、同じ朝日新聞社の雑誌「AERA」の記者を経てフリー記者として活動されている方。ここでは主に「新聞記事」について分析されているが、つまり3.11報道の時点ですでに、「報道の脳死状態」は蔓延していたことを、3.11の翌年、2012年4月に刊行されたこの本で追及されている。

 ‥‥ということはあれよ、7年前にこうやって問題にされていたにも関わらず、報道機関はその問題を放置し、というかさらに問題を深刻化させ(すでに死亡宣言されてもいいだろう)、今の安倍政権のトンでもない暴走を見過ごしている(産経新聞や読売新聞、そして多くのテレビ局とりわけNHKは、むしろその安倍政権の暴走の手助けをしているようにみえる)。どういうことなのか。その根本原因を、この3.11の報道の中から分析するのがこの本である。
 今もいろいろと問題になっている「記者クラブ」のこともこの本では取り上げられてもいるが、けっきょく「インターネットの普及」、「記者の仕事の断片化」などの問題点が挙げられている(もっといろいろとあるのだが、ちょっと省略)。

 NHKの場合はこの本に書かれていることよりももっと、NHKの抱え持つ体質にもよるところがあったのだろうが(前の籾井会長による「政府が右ということを左というわけにはいかない」という発言など)、新聞がこの本に書かれている問題を7年間解決せず、むしろ悪化させたことにはあきれるしかない。逆に権力側は「ジャーナリズムはいくらでも利用できる」と学習し、ジャーナリズムを利用するようにもなっているわけだろう。そして、そのような報道を信じ込んで安倍政権を支持する層というものが、たしかに増加してきている。先日の「新元号発表~安倍晋三の談話報道」のあと、安倍内閣の支持率が上昇したことからもそのことは読み取れる。
 正常な報道精神を持ち合わせたジャーナリズムというのは、権力の横暴を告発する機能を最大限に使うべきなのだが、今のジャーナリズムはほとんどその機能を放棄しているように見える。この本を読み終えても、この今の日本の惨状を見て、ただ「情けない」という思いにとらわれるのであった。しかもわたしも、その「被害者」のひとりなのだ。