ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『リプリーをまねた少年』パトリシア・ハイスミス:著 柿沼瑛子:訳

リプリーをまねた少年 (河出文庫)

リプリーをまねた少年 (河出文庫)

 リプリーシリーズ第4作。「リプリーさん、ボクはあなたにあこがれてるんですねん」という十代の少年(富豪の家系)が、アメリカの実家から家出してリプリー接触してくるというお話。
 少年の家出、失踪はニュース沙汰になっていて、自分に近づいてきた少年がまさにその、ニュースになって捜索されている少年ではないかとリプリーも気づくのだが、まさにその少年だとわかったあとも、「じゃあしばらくわたしのところにいなさい」と庇護する。実は少年は父を崖から突き落として殺したのだとの告白を受けるが、つまり少年はリプリーと「相似形」の精神を持っている。「分身」である。
 もちろんそのことはリプリーも了解しているというか、少年の精神(メンタル)の回復のために身を尽くすことになる。少年の精神を癒すために「ベルリンに一緒に行こう」と出かけ、そこでニュース沙汰になってヨーロッパにも知られていた少年が、チンピラに誘拐されるという<事件>も起こるのだけれども。

 今回は、めずらしくも「どこまでもイイ人」というか、少年を導こうとするリプリー。この作品でも展開として、リプリーの行動に疑問が呈されてもいいようにも思えるところもある。でもとにかくこの作品では「リプリーの<善意>」こそが前面に出されるわけで、これは『贋作』でのリプリーのバーナードへの<共感>というか思い入れにも通じるだろうし、『アメリカの友人』でのジョナサンへの<思い入れ>に通じるところもあるだろうか。
 ここに、リプリーという人間の「モラルの持ち合わせはないけれども、<共感>という強い感情は持っているのだよ」というキャラクター設定が表に出て、リプリーへの<魅力>を感じさせられるではないかと思う。それはつまり、<男>と<男>との結びつき、のようなものであり、ハイスミスの描くそういう関係性にはやはり蠱惑的なところがあって、わたしのような読者をいつまでも惹きつけるのであろう。