ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

「献灯使」多和田葉子:著

献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

 中編「献灯使」と、「韋駄天どこまでも」「不死の島」「彼岸」「動物たちのバベル」の4編の短編で構成。内容は密接に連結していて、「連作」といえるのだろう。
 トータルにいえば、3.11以降の日本を舞台とした近未来ディストピア小説で、「汚染」、「少子高齢化」などという現実の問題から、老人は死ぬことがなくなり(できなくなり)、若い人たちは成長することすらむずかしい。日本という国はこのとき<鎖国>していて、<民営化>されてしまっている。物語は百歳をとうに超えた<義郎>と、そのひ孫の<無名>とを中心に進展する。というか、義郎が世の中に思う「憤り」がなまなましかったし、前に読んだ『雲をつかむ話』のように、その<最後の一行>で、読んでいたわたしは<奈落>へと突き落とされてしまうのだった。

 鎖国している日本は外来語(カタカナ言葉)を使わない方向に進んでいるわけで、いかにも<言葉>にこだわる多和田さんらしい作品になっているのだが、ここで面白いのはこの本が昨年の「全米図書賞」の「翻訳文学部門」を受賞しているということで、いったいどんな方が翻訳されたのか知らないが、外来語のカタカナ表記が排斥され、アテ字的な漢字表記されるようになったコトバを、いったいどのようにして<翻訳>されたのか、さらに次の「韋駄天どこまでも」では、地の文の中の<漢字>が分解されて文章の中に活かされ、ま、一見<翻訳不可能>ではないだろうかと思ってしまう。なんだか、その<翻訳書>をいちどみてみたいものだ、などと思う。