- 作者: 高橋源一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/08/23
- メディア: 単行本
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タイトルの「今夜はひとりぼっちかい?」というのはつまり「Are you lonesome tonight?」というプレスリーの曲名なわけだし、なんというか、ここで高橋氏はポップ・カルチャーのフィールドから<文学>に攻めにいったのではないかという印象があり、それが例えば「サイタマノラッパー」であるとか、内田裕也の都知事選の政見放送とかへの言及から、そもそもが高橋氏自身が、<文学>のフィールドからはみ出して書かれている。
具体的な<文学>への言及は、後半の石坂洋次郎の「光る海」まで待たされたように思うけど、ここでの「光る海」の内容紹介は大笑いで、電車の中で読んでいて、笑いを噛み殺すのに苦労しましたよ。
ま、そもそも<日本文学史>の流れでは「傍流」というか、<純文学>とは見なされたことのない石坂洋次郎などを、なぜここで取り上げたのかと思えば、つまり石坂洋次郎は「戦争が終わった」というとき、映画化もされた「青い山脈」(1947)によって戦後の新しい社会、モラルを描いたではないか、ということが先にあって、その同じ人物(作者)が「光る海」(1963)において、いったいなぜここまでに<滑稽な・珍妙な>作品を書いてしまったのか、ということを問いかけているわけで、この問題提起はわたしは面白いと思う。
しかし、せっかく「面白くなるかな?」と思ったこの本も、そのあとはつまり、「3.11」と「東京大空襲」とかをリンクさせて描くわけで、それはいってしまえば誰でもが思ったことがらでもあって、「東京大空襲」をじっさいに体験していない高橋氏が(いや、わたしも「実体験があればいい」などというつもりはないのですが)あたかもすべてを体験したがごとくに「3.11」の惨事と並列して書いても、あまり説得力は感じなかった、というのが正直なところ。
さいごの章をこそ、高橋氏は「新しい時代の<文学>」と賭けて書かれたのかもしれないが、これはどこか阿部和重風でもあり、阿部和重ほどに面白いわけでもなかった。