物語は1962年のこと。イタリア系アメリカ人のトニー・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)はクラブ「コパ・カバーナ」の警備員(用心棒?)をやっていたが、クラブが改装で長期休業となってしまい、つまりはしばらくは職を失う。そんなとき、ドクター・ドナルド(ドン)・シャーリー(マハーシャラ・アリ)という人物から「アメリカ南部への2ヶ月のツアーに出かけるので、運転手を探している」という連絡を受けて当人と会ってみるが、彼はアフリカ系のアメリカ人だった。トニーは知らなかったが、ドクター・シャーリーは特にクラシック音楽の分野では非常に著名なピアニストなのだった。
ツアーのメンバーはドン・シャーリーと、彼のトリオのチェリストとベーシスト(共に白人)との3人で、トニーはドン・シャーリーの車の運転を任され、あとの2人は別の車で移動する。
この1962年のドン・シャーリーのアメリカ南部ツアーは「史実」であり、この映画はその事実に基づいて制作されている、とのこと。登場人物らは皆「実名」で登場する。
わたしはこの「ドクター・ドナルド・シャーリー」という人物を知らなかったのだけれども、彼は1954年にはアーサー・フィードラーの推薦でシカゴでボストン・ポップスと共演し、翌年にはカーネギー・ホールでNBC交響楽団と共演している。以後彼は、クラシック音楽の影響を受けた実験的なジャズのアルバムをリリースし、相当の売り上げを上げていたのだった。
彼は同時に心理学を学んでもいて、「音楽に対して聴衆がどう反応するか」ということも実験していたといい、この映画で描かれた1962年の「ディープ・サウス・ツアー」も、南部の人たちの反応を知りたいという動機もあったようだ。
トニー・ヴァレロンガは「クリスマス・イヴには自宅に戻る」という条件で、ドン・シャーリーの運転手兼用心棒役を引き受ける。
彼はアフリカ系の人への偏見がまるでなかったわけではないが、彼の妻のドロレス(リンダ・カーデリーニ)が偏見なくアフリカ系の人々と接していたので、その影響は受けているようだ。
出発に際して、トニーはドンから「グリーンブック」という小冊子を受け取るが、これは当時のジム・クロウ法下の南部で、黒人旅行者が利用できるモーテル、レストラン、ガソリンスタンドの住所が掲載された、アフリカ系アメリカ人旅行者向けのガイドブックなのだった。
いざツアーに出発するが、ドンはトニーに「より洗練された振舞い」を求めるし、トニーはそのことに反抗し、居心地の悪さを感じる。
しかしツアー先で聴いたドンのピアノはトニーに感銘を与え、ドンの助けになることをやろうとするのだ。ドンは演奏会場のピアノは「スタインウエイ」でなくてはならないと言っていたのだが、そうではないぼろピアノを用意していた会場にトニーは怒り、オープニングまでに「スタインウエイ」を持って来させたりもする。
しかし、公演のない夜にドンは街のバーに一人で出かけて白人客とのトラブルに巻き込まれ、トニーの救済がひつようだったりもする。ドンはトニーに「キミは正式にロード・マネージャーだ」と告げる。
南部を旅するうちに、そんな南部の白人たちのアフリカ系の人への差別意識を目の当たりにするトニーも、「南部の現実」を知るようになるだろう。じっさい、二人で車に乗っているところを警官にとがめられ、二人ともに連行されるようなことも起こるのだった(このときのドンの「事態解決法」は傑作というか、「ホントかよ」と観ていても驚いたりする)。
トニーは旅先から妻のドロレスにひんぱんに手紙を書くが、それを見たドンは「それじゃあ愛情が伝わらない」と、手紙の書き方を教えたりもする。
ツアーのラストはアラバマのバーミンガムにあるカントリークラブだったが、演奏前にドンがクラブのレストランへ行こうとすると、クラブのスタッフはドンがアフリカ系だからと、レストランへの入場を拒むのだった。トニーはその理不尽な仕打ちに怒り、ドンと共に契約を破ってクラブを出て行くのだった。
その夜、トニーとドンはアフリカ系のバンドの入るブルース・クラブで夕食を取り、そのあとドンは飛び入りのジャムセッションを行うのだった。
映画はトニーとドンが雪のニューヨークに戻り、トニーがクリスマス・イヴのパーティー中の自宅へ戻り、おまけのエンディングをつけて終わることになる。
じっさい、概念をしてはわかっていても、わたしは当時のアメリカの「ジム・クロウ法」の実態を知らなかったのだが、ビリー・ホリディがキャリアの絶頂期に南部で公演を行ったとき、宿泊できるホテルが見つからなかったという話を思い出したりもした。
さいしょに下着姿のヴィゴ・モーテンセンが登場したとき、「けっこう腹が出てるんだな」な~んて思ったわけだが、彼は役柄に合わせて体重を増やしていたらしい。
そしてもう一人の主役、ドクター・ドナルド(ドン)・シャーリー役のマハーシャラ・アリという役者さんのことも、強く印象に残った。「クラシック音楽界」で活躍されているという「気品」と、彼の行動原理ともいえる「傲慢さ」とを巧みに統合して演じられていた印象で、繊細さをも感じさせ、当時のトップクラスのミュージシャンという姿をみごとに体現された演技だったと思う。
彼はこの映画の2年前、『ムーンライト』の出演でも、この映画と同じく「アカデミー助演男優賞」を受賞されている、ということだった。『ムーンライト』は観ているけれども、その映画では「コカインの売人」役だったという。う~ん、覚えていないのだ。
あとわたしは、離れていてもトニーの愛情の支えだったであろう、トニーの妻のドロレス役のリンダ・カーデリーニという俳優さんも、心に残ったのだった。
さて、実はこの作品、「事実を基にした」ものだというが、実のところ、一方の主人公のドクター・ドナルド・シャーリーの描き方はどこかなおざりにしたというか、誤解を招くようなところもあったらしい。
ひとつにはこの作品、スタッフにアフリカ系の人が皆無だったということもあるらしく、この脚本はトニーの息子さんのニック・ヴァレロンガも協力されているらしいが、ドクター・ドナルド・シャーリーの関係者にはまったく連絡もなく製作されていたという話だ。
この件についてはさまざまな意見があるようだが、ストレートに言えば、トニーという存在が「白人の救済者」のように描かれ過ぎているのではないか?という疑念はあるようだ。どうだろう? 一本の映画としては、「楽しめる映画」だったけれども。
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